1554年〜1555年 木村の代官
「五百石の領土を貰えた」
皆にそう報告する。
皆は喜んでくれると思ったが、浮かない顔をしていると突っ込まれ、場所が最前線なのと政治的な理由、信長様から嫌われているということを伝える。
「なんじゃそれは? 信長は功臣を報う事ができない大うつけなのか?」
とお玉がキレた。
元々俺と信長様の相性が良くない事は占いでも出ていたらしいが、それを加味しても上に行くなら信長の下が良いと信長に仕えた後に進言していた。
出世とは言え、使い捨てるような扱いにお玉は怒り心頭だ。
一方で草子は冷静に話す。
「織田家に仕えたのは尾張で一番勢力が大きかったからと将来性を加味した判断だったっすが、ここまで相性が悪いとなると···」
「でも五百石の領土は大出世だよ! 足軽大将くらいの領地じゃない」
とお雪が励ますが、最前線ということで下手すれば一家全滅もあり得る。
「ただ周囲の大名は織田家以外は立志できるような家が少ないっす」
周囲の大名である斎藤、北畠、今川のうち、斎藤は成り上がった家である故に、他の成り上がりに異常に警戒している節がある。
北畠と今川は室町幕府の名家であり、こちらも成り上がりの余地は無い。
織田弾正家は分裂状態だからこそ農民でも夢を見ることができるのであるが、性格の不一致はどうしようもない。
「佐助、例え相性が悪くても、信長様の周りが功労に報いる姿勢を正してくれると思うから、信長様を主君と思うよりも織田家の仲間の為に働くと思ったほうが良いかもね」
とチチが言う。
確かに信長様とは相性が悪いけど千秋の兄貴や前田利家、津田盛月、藤吉郎や丹羽長秀さん、柴田勝家様や村井貞勝様、下方貞清様の様に仲の良い人も多い。
親衛隊の面々も信長様に絶対の忠誠を誓っているが、仲は悪くない。
「ごめんね、皆にも苦労をかけると思うけど···俺、できることを一つずつやるね」
「まぁ、くよくよしても仕方がないのぉ···」
とお玉が締めて、引っ越しの準備を始めるのだった。
油作りに参加していたメンバーは村木砦攻略の時に親衛隊が大勢討ち死にしたので清洲城の内政を回すために引き抜かれ、油の事業は一旦停止し、知り合い達に引っ越しの挨拶をすると、柴田勝家様からは
「最前線だ。無理に武功を稼ごうとして死ぬなよ。なに、時間さえ稼いでくれればこの権六(柴田勝家)、必ず援軍に向かうからな! 仲間は見捨てん」
と言われ、下方様からは
「ん、権六殿と同じ、私も必ず援軍に向かう。佐助は強いから大丈夫だと思うけど、本当に危なかったら逃げてきても良いからね」
と言ってくださった。
村井様からは
「水野殿に話はしてある。水野殿と協力して尾張西部を守ってくれ」
と言われ、数貫入った袋を渡された。
俺はこの人たちの為に頑張ろうと決めるのだった。
「信長様に遣わされたという代官は辻野分殿(佐助のあだ名)でしたか。油作りの話は聞いています。共に今川家からの脅威から尾張を守り抜きましょう!」
水野信元様は元農民の俺に対しても礼節を持って対応してくださった。
「水野様、木村は前の戦で信長様が協力していたとされた村人を無理やり処刑したと聞いていますが···」
「はい、木村はその為村人達が疑心暗鬼になってしまい、村人同士が啀み合い、いつ殺し合いになってもおかしくない程危険な状態です。仲を取り持つのは難しいと思いますが、協力しなければ田植え等の村全体で協力してやるような事が不可能になります···今年は税を取らないと約束したのでなんとかなりましたが···来年から厳しいでしょう」
「纏め役の方は?」
「真っ先に人柱となり処刑されましたが、残された子供達は処刑された遺族に迫害されて村長と呼べる人が不在になっています」
木村の状況はよくわかった。
ただ水野様から木村砦の再建は待ったがかかった。
そもそも木村砦は水野様の諸川城と刈谷城の境に楔を入れるための砦であるため、防衛のためとはいえその様な場所に砦を再建されるのは困るとのこと。
「館を構えるのは構いませんが、防衛拠点になるようなものを再建されるのは困ります」
「では今川家から攻撃があった場合は!?」
「直ぐに諸川城に逃げてください。諸川城で防衛戦を行う形を取ります」
「わかりました···」
俺の立場はあくまで代官だ。
五百石の土地を自由に使えるわけではない。
しかも場所も元々は水野様の所領であり、信長様が援軍に来たお礼として差し出された土地でもある。
丹羽様からも時期を見て返すらしいと言われていたので、本当に信長様と信行様の争いが収まるまでの左遷らしい。
とはいえやれることは色々と試そう。
まずは木村に向かい、村人達へ挨拶と話を聞いていく。
人徳のあった村長だけでなく、長老として村の皆に慕われていた老人、木村砦に荷運びとして駆り出されていた若者達が突如処刑されてしまったので何で私の夫がとか長老が、村長がとか、息子がという恨みの方向が互いに向き合ってしまい、命拾いした村人と家族を殺された者と関係性が崩壊してしまっていた。
まずは処刑されてしまった村人を供養するところから始めようと俺が墓石となる巨石を運び、処刑されてしまった村人の名前を掘っていった。
護法に頼んで供養の為に御経を読んでもらい、3日かけてしっかりとした供養を行った。
次に恨みの方向性を明白にするため、今川家を徹底的な悪者に仕立てた。
村人達は今川に騙されただけで、今川に居た兵が命惜しさに木村の村人を悪者に仕立て、逃げ出すための時間稼ぎに木村の村人が使われてしまったというありそうな話を作って村人達にそれとなく話していった。
俺はそんな今川が戻ってこないように村を守るためと、新たな村長を決めるために一時的に遣わされた者であるという事を強調した。
また織田家の重臣と親しいので、自分は成り上がるつもりなので村から出て一旗挙げたい者は俺の部下になれと力強く宣言もした。
大岩を運んでいたのは多くの村人が見ていたし、村人の為にと邪魔な大木を切り倒したり、備蓄食糧が戦によって荒らされてしまい、心許ないと聞くと、村の若者と家臣の白右衛門、善財、赤座、青座含めた20人に荷車を引かせ、今川方の砦に食糧を運搬する部隊を襲撃し、草むらに隠れながら俺と白右衛門と善財が弓を射掛け、混乱した所に俺が斬り込んで殺しまくる。
今川の兵達は逃げ出し、俺は隠れていた村人達に指示を出して食糧や馬、武器を奪い、村に持ち帰った。
秋の収穫した兵糧だったこともあり、村人が冬を越すには十分の食料であり、奪った武器はお玉に溶かしてもらって農具に作り替えてもらった。
兵二十人を傷一つ無く倒した俺に対して村の若者達は感激し、土地を継ぐことのできない若い男達は俺の部下になりたいと言い出し、俺や家臣達、嫁達が勉強や武芸を仕込むようになる。
俺は信長様が苦手だが、信長様が親衛隊を作ったやり方は親衛隊の皆から聞いていたので、それを俺なりに真似ることにしたのだ。
また村の中で綱引き大会を開き、5人一組で勝ち上がりを行い、優勝した組には炭や油等の生活に役立つモノを渡し、最後に俺1人に対して優勝した組の5人で挑んで俺に勝てたら一貫を渡す行い(エキシビションマッチ)をすると勝つために知恵を出し合い、共に競技をしたり客席で応援することで捻れた関係性の修復を急いだ。
また村人達の若者達の恋愛相談を嫁達がとりもち、家での繋がりを重視する中で、関係性が崩壊しているのを良いことに、仲の良い者同士をくっつけて和解のとっかかりを作ったりをした。
こうした努力をしたことで、春には村全体での農作業を行えるくらいには関係がある程度改善し、俺が率先して農作業をして手本を見せることで村人達も続くのであった。
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