第7話 覚醒、「未熟な賢者」


 『うぅ……』


 と、悔しそうにハンカチを噛みながら睨んでくる「神々」を前に、


 「さぁ、春風君。僕と契約を」


 「は、はい」


 と、オーディンに言われるがままに、春風は彼との「契約」に入った。


 オーディンはそっと春風の右目を手で覆い隠して、自身も右目の眼帯を外す。


 (うっ!)


 と、心の中で驚きの声をあげる春風が見たもの。


 それは眼帯の下に現れた、不気味に赤く輝くオーディンの右目だった。


 「ゆっくり目を閉じるんだ。大丈夫、本当に痛くはないからね」


 と、オーディンにそう言われるままに、春風は不安に思いながらもゆっくりと目を閉じた。


 次の瞬間、頭の中で「声」が聞こえた。


 「君は、何を望むんだい?」


 何処か幼い少年のものと思わせるその「声」が出した質問に、春風は答える。


 「俺は……俺は『強さ』が欲しい」


 そう答えると、「声」は更に質問を続ける。


 「どんな『強さ』が欲しいの?」


 「大事なものを守ったうえで、俺自身も生き残る『強さ』と、どんな状況に遭っても自分の『信念』と『意志』を曲げない『強さ』だ。ああ、でも……」


 「?」


 「いきなり大きな『強さ』だと、俺自身がそれに潰されそうで怖いから、最初は弱くて小さなもので、俺と一緒に成長する『強さ』がいいな」


 「結構欲張りなんだね」


 「そうだな。俺もそう思うよ」


 そう言うと、春風は「はは」と自嘲気味に笑った。


 その後、「声」は再び質問をする。


 「それじゃあ聞くけど、もしも『なりたい自分』になれるとしたら、君はどんな『自分』になりたい?」


 春風は即答する。


 「勿論、世界でただ1人の、俺だからこそなれる、俺にしかなれない『自分』になりたい!」


 「即答だね。で、具体的にはどんな『自分』なんだい?」


 「うーん、そうだなぁ。簡単に言うと、『常識』を理解出来ても、目的の為なら躊躇いなくその『常識』に立ち向かう事が出来て、しまいには新しい『常識』を作ってしまえる、そんな『自分』になりたい……かな?」


 「随分とね」


 「そうだね。マジでそう思うよ」


 と言うと、春風は再び「はは」と自嘲気味に笑った。


 その笑いに対して「声」は言う。


 「うん、質問はこれでお終い。後はでやっとくから、君はゆっくりしててね」


 その言葉を最後に、「声」が聞こえなくなるのと同時に、


 「え? あ、ちょっと待……」


 と、春風は何か言おうとしたが、それよりも早く、春風は意識を失った。


 ーー神名「オーディン」との「契約」による、異世界「エルード」への適応化が終了しました。


 ーー現在の「エルード」の「法則」に基づき、契約者「雪村春風」は、自身の「ステータス」を表示出来るようになりました。


 ーー契約者「雪村春風」の内部に、強い「魂の輝き」を確認。現在の「エルード」の「法則」に基づき、固有職能ユニークジョブ「見習い賢者」の能力に目覚めました。


 ーー固有職能「見習い賢者」の覚醒に伴い、スキル[英知][鑑定][風魔術][炎魔術][水魔術][土魔術][錬金術]入手しました。


 ーー契約者「雪村春風」のこれまでの経験に基づき、スキル[暗殺術][調理][隠密活動]を入手しました。


 ーー称号「異世界(地球)人」「固有職保持者ユニーク・ホルダー」「神と契約を結びし者」を入手しました。


 「はい、これで終わりだよ。目を開けて」


 というオーディンの声が聞こえたので、春風はゆっくりと目を開けた。


 「……あ、オーディン様?」


 意識がはっきりしないのか、春風は何処か状況を理解出来ないでいるようだった。


 「慌てないで、ゆっくりと呼吸しながら意識を取り戻すんだ」


 と、オーディンにそう言われたので、春風は何度も深呼吸しながら、意識を回復させた。


 その後、


 「もう、大丈夫です」


 と、春風がオーディンに向かってそう言うと、


 「いいかい春風君。君に刻まれた『異世界召喚』の術式からわかったんだけど、どうやら今の『エルード』は、地球でいうゲームのように『レベル』とか『ステータス』の概念があるんだ」


 「え、そんな最近の漫画やラノベみたいなのがあるんですか?」

 

 「ある。というわけで、早速君の『ステータス』を表示してごらん」


 「え!? そんな『表示してごらん』って……」


 オーディンの言葉に春風は「どうすんだよ」と言わんばかりに困惑したが、取り敢えずやってみるかと思い、再びゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、


 「……ステータス」


 と、小さく呟いたが、


 (あれ、出てこない。出し方が違うのか?)


 と、肝心の「ステータス」が出てこなかったので、


 「ステータスオープン。ステータス開示。ステータス表記」


 と、思いつく限りの「合言葉」を唱えた。


 そして、


 「オープン!」


 と、叫んだ次の瞬間、


 「うわ! 何だコレ!?」


 と、春風の目の前にゲームのウインドウ画面が現れた。


 驚いた春風がそのウインドウ画面を見てみると、そこにはこう表示されていた。


 雪村春風(人間・17歳・男) レベル:1

 職能:見習い賢者

 所持スキル:[英知][鑑定][風魔術][炎魔術][水魔術][土魔術][錬金術][暗殺術][調理][隠密活動]

 称号:「異世界(地球)人」「固有職保持者」「神(地球)と契約を結びし者」


 自身の「ステータス」を読み終えると、


 「……いや、『見習い賢者』って何!?」


 と、春風は自分にツッコミを入れた。


 そのツッコミを聞いて、オーディンはじめとした「地球の神々」は思わずビクッとなった。


 春風は「どういう意味なんだろう?」と思い、その『職能』の部分をそっと触れると、新たなウインドウ画面が現れた。にはこう記されていた。


 見習い賢者(固有職能)……「能力ちから」に目覚めたばかりの未熟な賢者。あらゆる魔術とそれに連なる技術を操り、様々な知識を自身の力として吸収し、それを駆使する事によって戦闘から生産まで幅広く活躍出来る。


 「へぇ、そうなんだ……って、あれ? ?」


 自身の「職能」を見てそう言った春風。


 だが次の瞬間、春風の脳裏に、ある「記憶」が浮かび上がった。


 ーーうん、決めた。僕、『賢者』なる。


 「っ!」


 それは、幼い頃の春風の記憶だった。その傍らには今は亡き両親がいて、幼い春風はその両親に向かって自身の『夢』を語っていた時の記憶だ。


 「……そっか。そっかそっか!」


 と、春風は声のトーンを少しずつ上げると、


 「あははははは! まさか、で昔の『夢』が叶うなんて! あはは、こいつはいい! いいじゃねぇか!」


 と、大勢の神々が見ているにも関わらず、


 「あははははははは!」


 と、大きな声で狂ったように笑い続けた。

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