第6話 「神」との「契約」


 「決まってんだろ、お前を改造するんだよ!」


 「……え?」


 ゼウスが言い放ったその言葉の意味を、春風が理解出来ないでいると、


 「「こぉらぁあ! ゼウスゥ!」」


 ーードゴォン!


 「ぐふぉおっ!」


 アマテラスとオーディンが、ゼウスの脳天に強烈なをお見舞いした。


 2柱の神々から思わぬ一撃を受けたゼウスは、


 「ぐへぇ」


 と、その場に倒れ伏した。


 そんな状態のゼウスを、


 「「ふん!」」


 と、アマテラスとオーディンは怒りの形相で見下ろし、


 「あ、あのぉ……」


 そんなアマテラス達を、春風はオロオロしながら見ていた。


 その後、アマテラスは「ふぅ」とひと息入れると、


 「春風君」


 と、真面目な表情で春風に話しかけた。


 「は、はい!」


 突然名前を呼ばれて、春風はすぐにビシッと姿勢を正した。


 アマテラスはそんな状態の春風に近づくと、ぽんと彼の肩に手を置いて、


 「あなたの気持ちはよくわかったわ。今から順を追って説明するから、よく聞いてね」


 と、穏やか口調で言ったので、


 「……はい」


 と、春風も真面目な表情でそう返事した。


 「オーディン言ったけど、『エルードの神』は『神』としてはまだ未熟だけどそれでもしっかりと『神』としての役目を果たしているから、とても『ルール』を無視するような子達とは思えないの。それでもこんな事が起きてしまったという事は、あの子達の身に何かが起きたと私達は思っているわ。その為にも、春風君に『エルード』に行ってもらって、あの世界で何が起きているのか、もしくはあの子達に何が起きてしまったのかを知る事が出来れば、それが『地球』を消滅から守る為の糸口になるとも思っているの……多分ね」


 と、最後は自信なさそうに言って説明を終えたアマテラスに対して、春風は「そうですか」と小さく言った後、


 「あの、1つ質問してもいいですか?」


 と、尋ねた。


 「なぁに?」


 と、アマテラスが首傾げると、


 「オーディン様は、『500年前辺りからその世界の生命力が弱まっている』と言ってましたよね? それを聞いて、てっきり俺をその時代に送るのかなと思っていたのですが……」


 と、春風は「どうなんですか?」と尋ねようとしたが、


 「ああ、そっち? 残念だけど、今あなたが言った、地球でいう『過去へのタイムワープ』は、たとえ異なる世界の事でも『神々の掟』で禁止されているのよね。その世界の歴史だけじゃなく、行った人のに悪い影響を及ぼしちゃうから」


 と、アマテラスはきっぱりとそう答えたので、


 「ああ、そうでしたか。納得出来ました」


 (うーん。神様も駄目って言うのか)


 と、春風は頭を下げた。


 そんな春風の態度を見て、アマテラスは「わかればいいよ」と言うと、再び説明を始めた。


 「話を戻すとして。で、春風君には『エルード』に行ってもらうけど、何せ『異世界』だからね、『地球』とは異なる『法則』で成り立ってる訳だから、の状態で向こうに送ると、あなたの体がその『法則』に耐えきれずに、重い病気とかに罹ってしまうか、もしくはその世界にとって悪い影響を及ぼして、最悪の場合だと世界が崩壊……なんて事になるかもしれないの」


 (え、マジで? こっわ!)


 「だから、そうならない為に体を向こうの世界に適応出来るように作り変えるんだけど……」


 「だけど?」


 「その役目、本来は向こうの『神』がやんなきゃいけないのに、今回はそれが出来そうにないんだよね」


 「え、じゃ、じゃあどうするんですか?」


 と、春風が恐る恐る尋ねると、


 「ああ、心配しないで。幸い、春風君の体には、今回行われた『異世界召喚』の術式が刻まれているから、そこから現在の向こうの『法則』とかを読み取って、それを元に体を作り変えるって訳」


 と、アマテラスが「大丈夫だから」と言わんばかりに大袈裟に手を振りながらそう付け加えたので、


 (ああ、そうか。それがゼウス様が言ってた『改造するんだ』って意味か)


 と、春風は納得し、


 「あの、『作り変える』って、もしかして痛みを伴う……とかですか?」


 と、再び恐る恐る尋ねた。


 すると、アマテラスは今度はもの凄く真面目な表情で、


 「それも大丈夫。ただその為に、春風君には私達『神』と、『契約』をしてもらうから」

 

 と答えた。


 「契約……ですか?」


 「ええ。私達と直接契約をする事によって、春風君は向こうだけでなく、他の異世界でもすぐに適応出来る『体』と、そこで生き抜く為の『力』を手に入れる事が出来るの」


 「それは凄いですね。それで、その契約をするにあたって、俺はどんな『代償』を支払えばいいのでしょうか?」


 春風のその問いに対して、アマテラスは「それも大丈夫」と言わんばかりに、真っ直ぐ春風を見つめて、


 「私達『神』が求めるのはただ1つ。それは、春風君が、自分の人生を生き抜く事よ」


 と、答えたので、


 「わかりました。俺、『契約』します」


 と、春風も真っ直ぐアマテラスを見てそう言った。


 その言葉を聞いて、


 「それじゃあ、早速私と契約を……」


 と、アマテラスが契約に入ろうとした、その時、


 「「ちょっと待てい!」」


 と、背後のゼウスとオーディンが、アマテラスの肩をガシッと掴んだ。


 「……何さ?」


 と、アマテラスがゆっくりと振り向きながら尋ねると、


 「お前、何普通に契約しようとしてんだ?」


 「そうとも、勝手な事をされては困る」


 と、彼らはギロリとアマテラス睨みながら答えたので、


 「いや、だって春風君、日本人だよ? だったら、日本の神である私が契約するのは当然でしょ!?」


 と、アマテラスは怒鳴りながら返した。


 しかし、


 「はぁ!? ふざけんな! こいつと契約すんのは俺だろ!?」


 と、ゼウスが春風を見ながらそう叫び、


 「いやいや、ここは僕が契約するところだろ?」


 と、オーディンが落ち着いた口調でそう言ったので、


 「え? あの、全員じゃ……駄目なんですか?」


 と、春風はまた恐る恐る尋ねた。


 すると、


 「ごめんね春風君。『神』との『契約』は原則として、11なの」


 「ああ、そうしなきゃ魂が『神』の力に耐えきれずに消滅しちまうんだよ」


 「うん、そうなったら幾ら僕達でも修復は不可能なんだ」


 と、3柱の神々は即答し、


 「え、マジっすか!?」


 と、春風はショックを受けた。


 その後、


 「だから私が契約を……!」


 「いや、俺だ!」


 「違う、僕だ!」


 と、アマテラス達が言い争っていると、


 『ちょっと待ったぁっ!』


 という叫びが複数聞こえたので、春風は「な、何だ!?」と驚くと、アマテラス達の周囲に、彼女達と同じワイシャツとジーンズ姿の老若男女が現れた。


 その姿を見た瞬間、


 (ああ、この方達も……)


 と、春風は彼らもアマテラス達と同じ『神』なんだと理解し、きっとアマテラス達の口論を止めに来たんだろうと考えた。


 だが、


 「彼と契約するのは僕だ!」


 「いいや、俺様だ!」


 「儂じゃよ! 儂ぃ!」


 「何言ってんの、私よ!」


 「違いますぅ、私ですぅ!」


 「馬鹿言ってんじゃないよ、あたしと契約するんだよ!」


 と、彼らも口論加わり出したので、春風は思わず昔のギャグ漫画の登場人物のように、


 「ずこぉっ!」


 と、叫びながらずっこけた。


 (こ、この大変な時に……)


 その後も、止まらないどころかますますヒートアップしていく神々を見て……。


 ーーブチッ!


 と、堪忍袋の尾が切れたのか、


 「ああ、もう! だったら……!」


 と、春風は怒鳴りながら神々に、ある「提案」をした。


 それは、あまりにもだったので、


 「……はっ! ああ、いえ、そのぉ……」


 と、我に返った春風は後悔したが、


 『いいね! それでいこう!』


 と、神々はその「提案」を受け入れ、それを実行した。


 その結果、選ばれたのは……オーディンだった。


 「いよっしゃぁあああああああっ!」


 と、オーディンは両腕を上げて嬉しさのあまり叫び出し、


 『ちっくしょおおおおおおおっ!』


 残り神々は、その場に膝から崩れ落ちた。


 「ささ、春風君。早速僕と『契約』しようか」


 と、未だ嬉しそうに「契約」に入ろうとしたオーディンを前に、春風はチラリと他の神々を見て、


 (皆さん、ほんっとうすみません!)


 と、心の中で全力で謝罪した。

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