第5話 そして、少年は立ち上がった


 (そんな……嘘だろ?)


 「エルード」という異世界が行った、「ルールを無視した異世界召喚」の所為で「地球」が消滅する。


 アマテラス達から告げられたこのに、春風はショックで顔を青くして、その場に膝から崩れ落ちた。


 そんな春風の様子を見て、アマテラス達は「そうなるよなぁ」と言わんばかりに困った表情になってオロオロしだした。


 そんなアマテラス達を前に、未だショックから立ち直れていない春風は、


 「うぅ……」


 と呻きながら、ズボンのポケットからスマホを取り出した。


 「……」


 何度も電源を入れようとしているが、やはり画面はつかなかった。


 やがて諦めたのか、


 「……畜生!」


 と、小さく呟くと、持っているスマホをグッと握って、それを真っ白な地面(?)に叩きつけようと思いっきり振り上げたが、


 「駄目!」


 と、アマテラスが両手でその手を掴んで止めた。


 「……何で、止めるんですか?」


 と、春風が声を震わせながら尋ねると、アマテラスは春風の手に握られているスマホを見て、


 「この中には、が入ってるんでしょ?」


 と、優しい口調で答えたので、その声が届いたのか、春風はゆっくりとスマホを握る手を下ろした。


 その後、春風は眼鏡を外して腕で両目を拭うと、


 「……アマテラス……様」


 「なぁに?」


 「どうすれば……地球を消滅の危機から……守る事が……出来ますか?」


 と、アマテラスに向かって再び声を震わせながら尋ねた。


 その質問に対して、アマテラスは「それは……」と答えるのを躊躇うと、


 「……確実とは言えねぇが、ならあるぜ」


 と、ゼウスが口を開いた。


 その言葉を聞いて、春風は「え?」と顔を上げて、アマテラスは「ゼウス!」とゼウスを睨みつけた。


 すると、


 「よせ、アマテラス。春風君には知る権利がある」


 と、オーディンが首を横に振るいながら言ったので、アマテラスはそれ以上何も言う事が出来なかった。そんなアマテラスを他所に、


 「あの、どうすれば……?」


 と、春風がゼウスに向かって尋ねると、ゼウスは「おっと!」と右手を出して「待った」をかけて、


 「あー、まぁ、あるにはあるんだが、その為にはだな……」


 と、気まずそうな表情になった後、


 「お前に『エルード』に行ってもらわにゃならんのよ」


 と言った。


 春風はその言葉を聞いて、


 「……え?」


 と、頭上に「?」を浮かべると、


 「まぁ、そうなるよね」


 と、オーディンが困ったかのように苦笑いして、


 「春風君、実を言うと、僕らとエルードの『神々』とはちょっとしたというかの間柄と言うのかな? まぁ、それは取り敢えずおいといて、とにかく、僕らは彼らがどういう子達なのかを知っているんだ。『神』としてはまだ若くて未熟な方だけど、それでも真面目に『神』としての役割を果たしていると言ってもいい。だから、そんな彼らが今回の『ルール無視の異世界召喚』をやらかすなんてとても思えないんだ」


 「……そう、なんですか」


 「ああ。でも、さっきも言ったように、今、その彼らと連絡が取れない状態なんだ。一体向こうで何が起きているのか? 彼らの身に何が起きているのか? それを確かめたいんだけど、『神』である僕達が出来るのは、それぞれが担当する『世界』の管理のみで、それ以外で『世界』と深く関わるのは禁止とされているんだ」


 「それで、俺の出番……という訳ですか?」


 「そう、僕達が動く事が出来ない以上、これから言う方法を実行出来るのは、本来先に召喚された者達と共に、その『エルード』という世界に召喚される筈だった春風君、君しかいないんだ」


 と、説明したオーディンを前に、


 「……」


 と、春風は顔を下に向けると、


 「春風君、勿論これは強制なんかじゃないわ。ちゃんと春風君の意思もしっかり聞くから……」


 と、アマテラスが話しかけてきたが、それを遮るかのように、春風はスッと立ち上がり、


 「わかりました。俺、その『エルード』って世界に行きます」


 と、真っ直ぐオーディンを見て言った。


 その表情を見て、オーディンは何か言おうとしたが、それよりも早くアマテラスが悲痛な表情で口を開く。


 「春風君、わかってるの? これは『ゲーム』なんかじゃないの、冗談抜きで地球……いや、もしかしたら『地球』と『エルード』の、2つの世界の命運がかかってるのよ? 失敗したらが待ち受けているかもしれないの。正直に言うとね、私もゼウス達も、自分の『世界』の住人がとても大切なのよ。だからどんな理由があろうと、そんな大切な子達を、守らなきゃいけない『ルール』を無視して攫っただけじゃなく、その子達の故郷まで危険に晒した連中を、私達は決して許さないし、そんな連中のいる世界にあなたを行かせるなんて絶対に嫌よ」


 今にも泣き出しそうな口調でそう言ったアマテラス。


 そんなアマテラスの言葉を黙って聞いていた春風は、チラリとゼウスとオーディンを見た。


 よく見ると、2柱もアマテラスと同様に悲痛な表情をしていたので、


 (ああ、このひと達も本当は、俺を行かせたくないんだなぁ)


 と、春風はそう感じて、「はは」と小さく笑ったが、すぐに真面目な表情になって、


 「アマテラス様。ゼウス様。オーディン様。皆様のお気持ちは大変嬉しいです。俺だって、その『エルード』って世界の連中を絶対に許せません。ですが、地球には大切な『家族』や、大切な人達、そして叶えたい『夢』があるんです。その『夢』を叶える為にも、地球を絶対に失いたくないんです。だから……俺を『エルード』という世界に行かせてください」


 と、はっきりそう言うと、春風はアマテラス達に向かって深々と頭を下げた。


 その姿勢にアマテラスとオーディンは「うぅ……」と躊躇いの表情になったが、


 「だぁあ! 畜生! そこまでの覚悟があるなら、俺から言う事は何もねぇ!」


 と、ゼウスは観念したかのように、半ばヤケクソという感じで言った。


 その言葉にアマテラスとオーディンが、


 「「ぜ、ゼウス……!?」」


 と、文句を言おうとしたが、それを遮るかのようにゼウスは春風に近づいて、


 「いいぜ、春風。お前を『エルード』に行かせてやる」


 と、ガシッと春風の両肩を掴みながら言った。


 春風はそれを聞いて、


 「あ、ありがとうござ……!」


 と、お礼を言おうとしたが、


 「だがな! その為にがあるんだ!」


 と、またゼウスが遮るようにそう言ったので、春風は「え?」と再び頭上に「?」を浮かべながら、


 「あ、あの、何をやるんですか?」


 と、恐る恐るゼウスに尋ねると、


 「決まってんだろ、お前をするんだよ!」


 と、ゼウスは真面目な表情でそう答えたので、


 「……え?」


 と、春風は「何言ってんだ?」と言わんばかりの表情で首を傾げた。

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