第4話 「ルール」を無視した「異世界召喚」


 (……えっとぉ、この人(?)達は……一体何を言ってるのかなぁ?)


 異世界召喚の所為で、地球が消滅する。


 アマテラス達が言ったその言葉を、春風は理解出来ないでいた。


 そんな春風に向かって、


 「お、おーい、春風くーん?」


 と、アマテラスが恐る恐る話しかけると、


 「……はっ! ど、どういう事ですか!? 何故!? 何故地球が、そのような事になってしまったのですか!?」


 と、我に返った春風は、アマテラスの両肩を掴んで、ユッサユッサと激しく揺りながら尋ねた。


 驚いたアマテラスは、体を揺さぶられながら、


 「お、お、落ち着いて春風君! 大丈夫! ちゃんと説明するから!」


 と、必死になって春風を宥めた。その言葉が届いたのか、


 「……はっ! す、すみません! 俺ってば、神様に対してなんて無礼な事を!」


 と、すぐにアマテラスの両肩から手を離し、深々と頭を下げて謝罪した。


 解放されたアマテラスは、


 「ああ、いいよいいよ。いきなり訳がわからない事を言われたら、混乱するのも無理はないから」


 と、春風に向かって「気にするな」と言うと、


 「じゃあ、順を追って説明するから、よく聞いてね」


 と、真面目な表情でそう言ったので、春風も真面目な表情になってコクリと頷いた。


 「まず今も行われているっていう『異世界召喚』なんだけど、実はそれを行うには、絶対に守らなきゃいけない『ルール』が存在しているの」


 「え、ルールがあるんですか!?」


 「うん、あるの。で、その『ルール』なんだけど、簡単に言うとね、まず1つ目は『人材』の手配ね」


 「人材……ですか?」


 「そう。で、その『人材』っていうのはね、『異世界召喚』を行うのは必ず『神職者』でなければならないって事よ」


 「神職……『神官』とか『巫女』って意味ですか?」


 「ええ、そうよ。何故なら、本来『異世界召喚』っていうのは、『神』と一緒になって行うものだからね。ああ、因みに、ただの『神職者』じゃ駄目よ、私達『神』と軽くが出来るくらいの、高い実力を持った者に限るわね」


 「か、神様と世間話って、最初から厳しいですね」


 「で、2つ目が、『異世界召喚』を行うに至った『動機』と、行うに見合う『対価』を用意しなければいけないの」


 「はぁ。『動機』はわかりますが、『対価』と言いますと、魔力とかそういうのですか?」


 「いやいや。それが通用出来るのは、あくまでもその世界の中だけだから。文字通り『異世界』か別の存在を召喚するんだもの。当然それとは別のもの必要とするから」


 「え、じゃ、じゃあまさか、誰かをに捧げなきゃいけない……とかですか?」


 「え、その世界の問題を解決してほしいから行うのに、その世界の存在を捧げろと? それこそ本末転倒よ」


 (うわぁ。今のセリフ、生贄文化のある地域に住む人が聞いたらショックを受けるだろうなぁ)


 「で、最後に3つ目。『異世界召喚』を行うにあたって、今言った『人材』、『動機』、『対価』を用意した上で、行う側の世界の『神』と、相手側の世界の『神』と話し合い、双方から『許可』を得なくてはいけないの」


 「神様からの許可……ですか。ここまで聞いておいて無礼を承知で言いますが、なんとも面倒ですね」


 「まぁ、気持ちはわかるわよ。でもね、私達『神』にとって、自分達が守護する世界の生物っていうのは凄く大切な存在なのよ」


 「そうなんですか?」

 

 「ええ。幾ら理由があるとは言え、そんな大切な存在を他の世界に召喚されるっていうのは、言ってみれば宝物を取り上げられるのと同じくらい辛いの。だからまぁ、その辛さを軽減する為に設けられた『ルール』なんだけど、今回『エルード』って世界が行った『異世界召喚』で、守られたルールの数は……0!」


 「ぜ、0ォッ!?」


 「そう、完全なルール違反……いや、ルールって言った方がいいかな」


 そう言い放ったアマテラスの言葉を聞いて、春風は顔を真っ青にして膝から崩れ落ちそうになったが、どうにか踏ん張ると、


 「……あの、『ルール』につきましては理解出来ましたけど、その『ルール』を無視して『異世界召喚』を行った所為で、どうして『地球』が消滅の危機になってしまったのですか?」


 と、アマテラスに向かって恐る恐る尋ねた。


 すると、


 「こっからは、俺が説明するぜ」


 と、それまで黙っていたゼウスが、ずいっとアマテラスの前に出た。


 そして、「あ、こら……」と文句を言おうとしているアマテラスを無視して、ゼウスは説明始める。


 「そうだな。例えば、今回の地球とエルードを例にするとしてだ、世界と世界の間には『次元の壁』っつうもんで隔たれているんだ」


 「次元の……壁ですか?」


 「ああ、とてもデカくて分厚い、目に見えない壁だ。で、今アマテラスが説明した『ルール』を守って『異世界召喚』を行うっていうのはな、この『次元の壁』にを作って、召喚対象になった存在を向こうへと送り出すって事なんだ」


 「な、なるほど……」


 「しかぁし! 今回、その『ルール』が思いっきり無視された。それは即ち、『次元の壁』に無理矢理デケェを開けてそこから無差別に攫うって事なんだ。で、そうなったら何が起きるのかというと、穴を開けられた『次元の壁』は、修復する為の『材料』として、のさ」


 「それが、『エルード』って異世界が消滅する理由なんですね?」


 「ああ、そうだ。で、ここからが重要な事だが……」


 と、ゼウスがそう言いかけると、


 「おっと、次は僕に説明させてくれ」


 と、今度はオーディンがゼウスの前に出た。


 「あ、おい!」


 と、ゼウスが何やら文句を言おうとしたが、それを無視してオーディンは口を開く。


 「さて、大体の流れは理解出来ていると思うから、ここからは更に重要な事になるよ」


 「は、はい」


 「今ゼウスが説明したように、現在『次元の壁』は、『エルード』による『ルールを無視した異世界召喚』の所為で大きなが空いている状態だ。そして、この穴を塞ぐ為の材料として、『エルード』という世界の消滅は決定しているけどね……」


 「?」


 「実は詳しく調べた結果、その『エルード』という世界のが、どういう訳か500年前辺りからどんどん弱くなっているんだ」


 「え、世界にも生命力ってあるんですか?」


 「勿論。それは、君が暮らす『地球』も同じだ。で、話を戻すけど、どうしてこんな事になっているのか向こうの世界の『神』に尋ねようとしたんだけど、こちらもどういう訳か相手側に繋がらない状態なんだよ」


 (『繋がらない』って、神様同士の連絡手段ってのがあるのかな?)


 「それだけでもただ事じゃないっていうところに、今回の『ルール』無視の『異世界召喚』で、おまけに本来は『異世界召喚』は原則1だというのに、一気に24人……いや、君を加えて25人か。とにかく、当然空けられた穴も相当大きなものになるだろうから、修復するには『エルード』という世界だけでは足りなくなってしまったんだ」


 「た、足りなく……なった?」


 「そう、足りなくなったんだ。そうなると、足りない分は何処から調達すると思う?」


 「何処からって……っ!」


 その瞬間、春風はオーディンが何を言いたいのか理解して、再び顔を真っ青にした。


 それは、あまりにもものだった。


 そして、春風はブルブルと体を震わせながら、


 「ま、まさか……」


 と、口を開くと、


 「そう。『次元の壁』は、『地球』も『材料』として取り込むつもりなんだ」


 と、オーディンは真剣な表情で答えた。


 春風は顔を真っ青にしたまま、オーディンに尋ねる。


 「取り込むって、ですか?」


 「そうだ。海も山も町も、そして、人間もね」


 「取り込まれた人間は、どうなってしまうのですか?」


 「どうもならない。取り込まれた最後、笑う事も、怒る事も、泣く事も、そして、死ぬ事すらも出来ず、ただ壁の一部として、存在し続けるんだ」


 「……じゃあ、取り込まれたら、助ける事は出来ないんですか?」


 聞きたくないと思いながらも、顔を青ざめたまま尋ねる春風。そんな春風に、オーディンは静かに答える。


 「出来ない」


 そう即答したオーディンの答えを聞いて、


 「そ、そんな……」


 と、春風は今度こそ膝から崩れ落ちた。

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