第54話

 今ここで学園長の答えを肯定しても、否定しても、大した意味なんてない。

 もう既にこの人は確信に至っているのだから。

 人の話は聞かないくせに、嫌な事は聞いてくる。

 しかも、聞いて置きながら答えは自分の中で確定させているのだからタチが悪い。

 それならば、質問などせずに最初から断定してくれればいいものを。


「俺の懸念するところはご理解いただいているのでしょう? それならば、見逃していただけませんか? 入学初日から面倒事の種を作りたくはないんです」

「吾輩は貴様の数値が如何なるものでも他言はしない」


 たしかに、学園長から他言はしないのかもしれない。

 でも、それなら良い、とは思えないんだよな。

 魔法師の才能値が1であることに興味を示した目の前の男が、剣士の才能値∞に興味を持たないとは到底思えない。

 他言しないにしても、面倒な展開になることは目に見えてる。

 剣士の才能値についても研究したいだとかなんだとか……。

 そんな展開は避けたい。


 かと言って、今のこの場で学園長の願いを断ったところで、それでこの話が終わりになるかどうか……。

 何と言っても、俺はこれから5年間も学園で生活するのだ。

 そして、目の前の人物はそのおさ

 会う機会が少ないと考えるのは、希望的観測が過ぎる。

 そして、学園長と出くわす度に同じようなことを頼み込まれる状況を想像すれば、何と面倒くさい事か……。


 もうこれは、しゃーなしだ。

 

「分かりました学園長……誰にも他言しない。それは絶対に守ってください」

「もちろんだ。それでは――」

「それと」


 早々に鑑定の儀式を執り行おうとする学園長を言葉で制する。

 そして、俺は追加の条件を付け加えた。


「俺が学園長に協力するのは、魔法師の才能値に関することだけ。この条件を承諾していただきたい」

「……ふむ?」

「先ほど話した通り、俺は魔法師志望。学園長の研究に協力することは俺自身の利益に繋がる可能性が充分にある。でも、それ以外は別です。学園長は鑑定の儀式で如何なる結果を目にしても、魔法師の才能値以外の何事にも口を出さないでください」


 俺から出た条件を聞いて、何度か蟀谷こめかみをトントンと叩く。

 彼が考え事をする時の癖なのだろう。


「良かろう。吾輩は如何なる結果を目にしようとも、魔法師以外の才能値に関して言及はしない。もちろん目にした結果を他言もしない。今後、何か干渉しようとすることも……」


「自分は魔法意外に興味はない」そう言いた気な様子で学園長は俺の要求に答えた。

 でも、まだ終わりじゃない。

 どうせなら、我儘も1つくらい許してもらおう。

 

「そして、俺の魔法師の才能値を伸ばす方法を一緒に模索して欲しい」

「要求は小出しにするな。可能な限りは聞き入れよう。全て言ってみよ」


 太っ腹な事だ。

 それなら最後にもう1つ。

 

「では最後に、魔力を感じ取れるようになるための訓練があれば教えてください」

「…………⁇ どういうことだ?」

「言葉通りですよ。俺は、自分の体内を流れる魔力を感じ取ることができないんです」

「なんだとっ⁈」

 

 そして、学園長は俺の言葉に驚愕するのだった。

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