第53話
「悪かったなルーカス。少々考え事に気を取られた」
少々?
小一時間は待ち惚けにされてましたが?
こっちも遅刻してる手前、待たされることに関しては文句を言えないんだけど。
「いえ……お気になさらず」
「そうか。それでは、早速才能値の鑑定をさせてくれ。魔法師の才能値が本当に1か確認をしたい。ああ、お主の言葉を疑っているわけではないぞ。成長と共に才能値は伸びる。現状の数値を正確に把握したいのだ。伸びていれば、これまでに何をしてきたかを詳細に話を聞かせてくれ。レポートにまとめる」
待て待て、話がおかしなことになってるぞ……。
「あの、それは入学に必要な手続きでしょうか?」
「いいや。吾輩の研究に必要な手続きだが?」
どうやら学園長はまだ自分の世界から帰還なされていないらしい。
俺の入学手続きはどうした?
「俺としては早く入学手続きを済ませて、これまで出遅れてしまった分、学園の生活に慣れる時間を作りたいのですが……」
「鑑定の儀式は今ここで出来る。時間は取らせん」
「そういう問題でもないんですけど……。そもそも、あんまり人に才能値を知られたくないと言うか……」
多くの貴族にとっては、才能値はとりわけ隠し通すようなものでもない。
特に、高い数値であれば社会的地位を高めるステータスの1つになる。
その場合、隠すほうが損――というのが一般的な見解。
しかし、俺の場合は事情が違う。
剣の才能値∞。
それがどれほどの数値であるのか、俺には未だに実感がない。
それでも、常軌を逸している事だけは、流石に分かって来ている。
下手に目立つのは嫌だ。
特に、
「あの……家の方針でアラディア家の親族以外には才能値の開示をしない方針になってまして……」
「今さっき、魔法師の才能値が1だと自供したばかりであろうが」
「それ以外に関してです……」
「…………よくわからんな。何故隠す?」
この学園に置いて才能値とは最も明確な力の象徴だ。
学生たちは才能値を高め、学内における自身の地位を高めようと必死になる――というのが、
王都の貴族子息は将来的に王国魔術師団、あるいは王国騎士団に入る。
そして、宮廷に近い場所でバチバチに政争を繰り広げる彼らは、学生のうちから互いの格付けに躍起になる。
一方で、辺境の貴族は別だ。
俺達は将来、自身の領地に籠もって一生を過す。
そんな俺達に必要なのは力を誇示することではない。
目立たず、下手に敵を作ることなく学園生活を終えることだ。
波風を立てず、平穏な生活を送るだけでいい。
剣の才能値∞だなんてステータスは、俺の学園生活においては厄介事の種にしかならない。
下手に王都の連中から目を付けられたら面倒だ。
「そうか……お主、魔法師とは別の才能値が抜きん出ておるのだな?」
そして、俺みたいな考え方をする辺境貴族は珍しくもない。
学園長として生徒を見てきた人物が、俺の危惧する所に気づかないはずもなかった。
さて、どうしたもんか。
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