第50話

 外から見てもデカく見えた建物の群れ。

 中に入ってみれば、やはりあの時感じた以上の衝撃を受ける。


「すげ~」

「お上りさん丸出しだな坊っちゃん」

「あ、すみません……俺が居たところはこんな建物なかったので……」


 王都の建物はアラディア領で一般的な木造建築ではない。

 普通の石材とも違う、もっと艶のある鋼のような何かでできている。

 いったいどんな素材なのか、あんなものをどうやって加工して、あんなデカい建物を建てているのか。

 全く以て想像もつかない。

 

「こんなもん王都以外のどこにもないだろうさ。ここにある建造物は大半が消失した技術ロストテクノロジーで作られてんだ。……ひっく」

「消失した技術?」

「ああ、大昔の大魔術師の魔法で作られたんだとか、どっかの天才建築士が組み上げたんだとか。果てには神様が創り出したとかっていう輩までいる。ま、そんな所説ある建物ばっかよ……ひっく。何にしても、現代の人間には再現不可能なんだとよ。特に、王都の中心に聳え立つ尖閣殿せんかくでんは隅々まで解析不可能な技術のてんこ盛りって噂だ。一般市民の俺にゃあ、一生入る機会なんてもない場所の話だがよ……ひぃっく」


 ニーズヘルクさんは相変わらず酒を片手にしゃくり上げながら語る。


「まぁ、なんにしてもあれだな。王都ラドクルスへようこそ」

「……ありがとうございます」


 俺は遂に王都へ辿り着いた――。

 

 長くお世話になった馬車を降りる。

 御者の男へ挨拶代わりに手を振ると、彼は静かに親指を立てて去って行った。

 なんかカッコいい。


「で、このあとはどうすんだい?」

「本当なら冒険者ギルドに行って知り合いと話したいところなんですが……今は急ぎで学校に向かう必要があるので、真っすぐそっちへ行きます」

「へぇ、冒険者に知り合いがいるのか。名前は?」

「冒険者ではなく、ギルドで教官をやってる人で……ブライドっていう人なんですけど」

「ブ、ブライド……って『柔剛騎士』か?」


 懐かしい。ジルさんも昔そんな呼び方をしていた。


「はい。たぶんそうです。サーベル使いの剣士で――」

「……あの人とどんな関係だ?」

「少し前に、俺の剣の先生をして貰っていたんです」

「マジかよ……それでよく会おうと思ったな。トラウマになったろ? あの人、容赦ねぇから……」


 たしかに初日から木剣でタコ殴りにされたり、ゴブリンのいる森に放置された経験はトラウマになってる。

 あの人、こっちでも同じような事やってんのか……。

 

「俺は素振り100回終わるまで酒を取り上げられて泣かされたぜ……」

「もう冒険者辞めちまえよ」

 

 クソしょうもない話だった。

 

「ダッハッハ! まぁ、そういうことならブライドに会ったら俺から坊っちゃんのことは伝えとくぜ」

「本当ですか? 助かります! 王都まで送り届けていただいたことも……改めてお世話になりました」

「良いって事よ。俺も話し相手が出来て楽しかったぜ」


 ニーズヘルクさんへ別れを告げる。

 結局、出会った最初から最後まで彼が酒瓶を手放すことはなかった。

 飲んだくれにしたって飲み過ぎだ。

 でも、俺は飄々ひょうひょうとしたあの人がどうにも嫌いではなかった。

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