第49話

 目が覚めると俺の身体は柔らかい毛布に包まれていた。

 

「――⁉」

「おっ、目が覚めた」


 知らない男の声が聞こえる。

 起き上がろうとすると鋭い痛みが身体中に奔った。


「無理しなさんな。体中にいくつも打撲が出来てた。死にゃしねぇが、酷い怪我だぜ」

「そ、そうですか……」


 適当な相槌をしたものの、そんなこと言われるまでもなく身をもって理解している。

 たぶんバケモノに吹っ飛ばされて転がった時の怪我だ。

 特に左肩は酷く痛む。


 にしてもここ何処だよ。

 そして、貴方はどちら様?


「あの……」

「俺はニーズヘルクだ。王都で冒険者をしてる。所謂、飲んだくれの浮浪者よ。へへっ」


 冒険者にしてはひょろっとした細身の男。

 赤らんだ顔に酒瓶を持つ目の前の人物は、俺の知る冒険者たちとは似ても似つかない。

 正に飲んだくれのオッサンだ。

 

 冒険者ってのは小粋なジョークなのか?

 こんなんじゃゴブリンの棍棒で身体が折れそうだぞ……。

 まぁ、今はそれより――。

 

「えっと、今はどういう状況なんでしょうか?」

「薬草集めに遠出した帰りにオメェを拾った。正確には、オメェを介護をする街道警備隊に預けられたんだ。アイツら、普段は俺らをバカにしてるくせぇに深々と頭なんて下げてきやがったよ。随分と大切にされてんだな坊っちゃん。……ひぃっく」


 酒の飲み過ぎか話し終わるとしゃくり上げるニーズヘルクさん。

 よくわからんけど、ケルビンさん達も一応無事だってことか?


「あの、街道警備隊の人たちは?」

「どうにかして帰るとよ。オメェさんに感謝してたぜ。ありがとうって伝えてくれってよ。何したんだ?」

「い、いえ、得には……」

「はーん、ま、どうでもいいけど。……ひっく。あ~酔った。俺は寝るわ。もうすぐ王都に着くから。オメェさんも、もうちと寝てろよ」

「あ、はい……はい? 王都? もう宿場町も通ったんですか?」

「……ぐがっ」

「ちょっ! 寝るの早!」


 良く分からないけど、俺は王都へ送り届けて貰えるらしい。

 しかし、そうなると気掛かりなのはクオンだ。

 いったいどうしていることか……。

 

「ま、何かあったら先に学園へ行くように言ってあったし、大丈夫か」


 そして、俺はニーズヘルクさんに言われた通り、再び眠りにつくのであった


 ★


「ルーカス様……どうかご無事で……」


 私は今も街道で戦っているであろうルーカス様を思い祈りを捧げる。


 届け! 私の想い!


 ――私がルーカス様の無事と、彼が単身で冒険者たちと共に王都へ向かったことをケルビンさんから聞かされるのは、この4日後だった……。

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