第47話

 あのバケモノを斬り裂く瞬間、黒翅の剣身は眩い漆黒の光を纏い、甲高い高周波音を鳴らしていた。

 圧倒的なエネルギーの凝縮。

 そして、その解放。

 これまでにない力を帯びた黒翅からは、それを握る俺自身すらも驚愕する苛烈な剣撃が飛んだ。

 だが、今の黒翅はもういつも通りの黒々とした姿があるだけ。

 

 目の前に広がるのは破壊の痕。

 もう魔物は影すら見えない。

 かつてこの技を繰り出した時、敵は中型の魔物だった。

 その時も、俺は感じ取れる周囲の脈を掻き集め、束ね、強力な一撃を繰り出した、のだが……こんなことにはなってない。

 流石にここまでの惨状を生み出す技では無かった。

 

 それほど、攻撃に取り込んだあの魔物の力が壮絶なものだったということか……。

 もしくは、単純に鍛冶場の馬鹿力という奴が働いていたのかもしれない。

 

「それにしたって、これは……」


 山の木々は剣撃の巻き添えを食らって遠方まで吹き飛んでいる。

 きっと外から見れば緑の生い茂る山の一部が不自然に禿げあがって見えるだろう。

 どう見ても人間の仕業には見えまい。

 俺も自分がやったとは思えない。

 というか、思いたくない。


 あまり一般的ではない『脈』という概念。

 俺自身、なんだか良く分かりもしないで操っているこの力は、もしかすると飛んでもない可能性を秘めたものなのかもしれない。

 その可能性とやらが、良いものか悪いものなのかは分からないが……。

 しかし、俺の身体には今も得体の知れない力が残留して流れているのだった。

 

「前やったときは敵を両断する程度だったんだけどな」


 思ってたのと違うのが出ちゃった。

 今の心境はそんな感じ。

 剣を振ったら衝撃波が生まれるとか思わないじゃん。

 なんだよこれ。怖いって。

 再会したらブライド先生に披露しようとか思ってたけど、辞めよう。

 これは人にお見せして良いものじゃない。


 そして、俺は考えた、考えに考えた結果――。

 

 

「うん……何も、無かった!」


 俺はバケモノと戦ってない。

 戦おうと思ったら、山崩れが起こって勝手に死んだ。


 そういう事にしよう!

 

「よし、帰ろ」


 俺は戦闘を終えケルビンさん達が居る方へと歩き出そうと足を踏み出す。

 だが――。


 俺の足は地を踏みしめることができず、ズルッと滑る。

 そして、そのまま崩れるように倒れた。

 

 あ、れ……なん……これ。


 今さっきまで忘れていた肉体の疲労が唐突にやってくる。

 まぶたは誰かに押さえつけられているかのような重さ。

 開けていれず、俺の目は勝手に閉じていく。

 身体からは、さっきまで感じていた不思議な力が抜け落ちて行く感覚。

 最後に俺の意識はブツッと途絶えた。

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