第46話
残った力を絞り出して意識を剣に集中させる。
ほんの些細なミスで、俺の身体は文字通り
ゆっくりと息を吐き出し、攻撃に備える。
そして――左の大振りが来る。
分かりやすく正面から突っ込んできやがった!
と、思った瞬間。
奴の拳は俺の手前で空振り、そのまま地面を叩いた。
途端にバケモノは己の拳の威力での身体を宙に投げ出される。
「――⁇」
オイオイ! 何をやってんだコイツは⁉
理解不能な行動に虚をつかれる。
ただ攻撃が失敗したのかと思いきや――奴は器用に空中で身体をグルッと前転させると、自重と勢いを乗せた強烈な
「ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙‼」
そんなアクロバティックな攻撃もってるのかよ⁈
曲芸みたいなことしやがって!
全くの予想外。
拳を構える体制から足技が飛んでくるとは思いもしない。
正面から拳を打っても俺のカウンターを食らうと学習したか?
単なる脳筋のバケモノじゃないのかよコイツ……!
「でもなぁ――こっちも、同じ手を使う気はさらさら無かったぜ!」
やはり、この
だけど、今の俺には関係ない。
構えは、≪郭断絶剣≫と同じく、直立。
これが、俺にとって最も脈を感じ取れる自然な状態。
迫りくる大槌のような踵落とし。
俺は攻撃へ向かった黒翅を添えるようにゆっくりと動かす。
その刹那、俺はその力を操り――。
「自在式剣術」
王国式柔剣術の極意、『脈』を操る技術から派生させた我流の剣技。
本来、王国式柔剣術は対人戦闘を得意とする流派。
俺は魔物と戦う中で、柔剣術が人外との戦いには向かないことに散々悩まされた。
まだ力の弱い俺が剛剣術でゴリ押すのはリスクが高い。
かと言って、柔剣術では決め手に欠ける場面が多い。
柔剣術の型を改良した≪周凰之絶・輪≫を始めとする幾つかの改式剣技は、この悩みをなんとかしようと試行錯誤する中で編み出したものだ。
それらに加えて切り札の奥義≪郭断絶剣≫で何とかなる……と思いきや、1つの問題があった。
敵の攻撃の脈を弾き返す≪郭断絶剣≫。
この技はその性質上、敵の攻撃が弱ければカス当たりで終わってしまう癖のある剣技なのだ。
俺が頻繁に相手するゴブリンだの灰狼には有効な剣技とは言えない。
結局、威力が足りなくなる。
身体が小さい。
力がない。
どこまでも俺にはこの悩みが付き纏う。
悩み、苦しみ、最後に俺が到達したのは単純な答えだった。
――『あらゆる力には脈がある』、だったら自然に流れている脈も操れるんじゃね?
そして辿り着いた。
「≪
こんな大物相手に試したことはもちろんない。
それでも、成功させなければならない。
根本は王国式柔剣術と同じく脈を操る。
だが、俺は敵から繰り出された攻撃の脈を操るに留めない。
俺自身の力、そして流れる風、果てには踏みしめる大地を流れるエネルギーをも乗せて――解き放つ。
「――――ヴ⁇」
俺の斬撃は衝撃波を生み出し、バケモノの身体は真っ2つなりながら遥か後方へと吹き飛んで消えた。
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