第44話

 まだブライド先生がアラディア領にいて、俺があの人から剣術を習っていた頃――。

 

「ルーカス様はどうしても身体ごと力に流されてしまいますなぁ」

「ハァハァ…………当たり前、じゃないですか……。子供の俺に、ブライド先生の剛剣術を受けきるのは……無理、です」


 柔剣術の型を全て覚え、ある程度は剣が扱えるようになった当時の俺。

 しかし、ブライド先生の剛剣術を相手にカウンターを決めようとすると、あの頃はどうしても力のゴリ押しに負けた。

 

「まぁ、まともに正面から受けるのは無理でしょうな。私とルーカス様は元の体格に差があり過ぎますので」

「分かってるなら、この訓練、やめましょうよ……」

 

 何度も何度もブライド先生に吹っ飛ばされ、息も絶え絶えになっていた。

 流石に訓練じゃなくてただの虐めだろ、とか。

 そんなことを思っていた記憶がある。


「ルーカス様? この私が、何を教えても簡単に吸収してしまう貴方をちょっとばかり困らせてやろうとか、そんな浅はかな考えでこの様な訓練をしているとお思いですか?」

「流石に、そんなことは思ってないですけど……」

「半分は正解です!」

「ふざけんなクソ教師が! 今すぐ解雇されろ!」

「ハッハッハ! まぁ、半分冗談として……」

「…………半分の半分は、俺を虐めたいだけなんですね?」

「オホン……良いですかルーカス様? 柔剣術は相手の力を受け流し、その流れに乗って剣技を放つのが基本です」

「耳にタコができるほど聞きましたよ」

「最後まで聞きなさい……。今のはあくまでも基礎。柔剣術には、次の段階があります。それは――――」



 ◆


「――⁉」


 まさか1日に2度も走馬灯を見るとは思わなかった。

 目を開けた瞬間、俺は気を失っていたらしいことに気づく。

 本能が着地の瞬間、痛みから逃れようと意識をシャットアウトさせていた。

 どれだけの時間が流れたのかはわからないが、おそらく気を失っていたのは数瞬だろう。

 長く気絶していたのなら、俺はこうして意識を取り戻すことなく永眠していたに違いない。

 

 焦って放った≪流閃≫の不発。

 捌ききれないかった力に流され、俺はまともな受け身も取れずに地面を転がったらしい。

 動こうとすれば、全身に痛みが奔る。

 

 けれど――目前には、既にあのバケモノが迫っている。


「ギッ――⁉」


 身体の内から来る軋むような痛みをこらえ、無理やりに立つ。

 そして、黒翅を構えた。


 ――意識を手放してもなお、コイツだけは手放さなかった。

 

「……やるしか、ねぇ」


 状況はドンドンと悪くなっている。

 ベストパフォーマンスはもう出せる気がしない。

 

 それでも、俺にはまだやれることが残っていた。


「ヴ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙‼」


 唸り声と共にあの拳が飛んでくる。

 そして――。


「王国式柔剣術 奥義≪郭断絶剣くるわだんぜつけん≫」

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