第40話
魔物に対する知識のない街道警備隊員には、それが何と呼ばれいる魔物であるか分からなかった。
いや、この魔物を知る人間はベテラン冒険者であっても少ないのが実状であろう。
鍬形に大きな2本の角を生やす牛頭の鬼。
巌のような屈強な肉体は、剛皮と体毛に覆われている。
どんなバカでも、見ただけで容易く攻撃を通すことはできないとわかるだろう。
体高は成人男性2人が縦に重なるよりも少し小さいくらいか……。
とにかく、並の人間よりも遥かに大きく強靭。
正しく、暴力の化身と呼ぶに
本来であれば、人里から遠く離れた未開の秘境に住まう
しかし、その牛鬼は遠く離れた地の
そして、そこに新天地を見つけてしまったのだ。
間違いなく、王国からS級冒険者へ特別討伐依頼を出すべき災害級の魔物。
そんなバケモノが、悠々と街道近辺の山中を闊歩していた――。
◆
俺たちが
「ケルビンさん……これはダメだ。俺たちがどうにかできる範疇を越えてる」
ケルビンさんと俺、そして数名の街道警備隊員で編成された小隊。
俺たちが一日掛けて移動した街道には、新たに魔獣の犠牲になったであろう馬車の残骸と無惨な被害者の亡骸が転がっていた。
明らかに灰狼なんていう小物の仕業じゃない。
馬車は圧倒的暴力によって
「まず間違いなく灰狼やゴブリンなんてチンケな敵じゃない……。ケルビンさん、生還した隊員が告げた魔物はどのような姿をしていたのか、もう一度教えてください……。俺は
「に、二足で歩く巨大なバケモノとしか……」
「それ意外は何も?」
「はい。酷く錯乱した状態だったので……」
「クソッ……」
早計過ぎた。
殆ど魔物が生息していない安全地帯。
異常事態が発生したところで、高が知れていると甘く見てしまった。
これは標的の詳細も把握せずに安請け合いして良い案件じゃない。
早計さは愚と解く。
何故、俺は今更になってこんな初歩的なミスを犯しているのか。
多少は実戦になれたつもりにでもなっていたか? この
お前はベテランに囲まれてヌクヌク冒険者ごっこをしていただけだ……。
「今すぐここを離れましょう。冒険者ギルドでも何でもいい、とにかく早く誰かに現状を伝えないと――」
「ヴモ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙‼」
身体に振動が伝わるほどの重低音。
およそ生物から放たれる咆哮とは思えない轟音が鼓膜を震わせた。
ビリビリと全身から危険信号が出ている。
音源は目の前の山中。
敵影は見えない。
それでも、今すぐ逃げなくてはならないと本能が告げている。
逃げなくてはならないのに――。
「「「ヒィーン!」」」
俺たちが乗る馬は揃って
怯え、そのままあらぬ方向へ走り出す馬。
振り落とされないよう必死に捕まる俺とケルビンさんだったが、遂に転げ落ちた。
「ガッ……!」
俺はケルビンさんに抱きかかえられ、彼のお陰で殆ど衝撃を受けることはなかった。
けれど、その分の負担を被ったケルビンさんは藻掻き苦しそうに咳を吐き出す。
「ケルビンさん!」
「……ッ」
見渡せは他の隊員たちは散り散りに逃げ惑っている。
中にはひっくり返った馬の下敷きになっている者まで……。
「一体、何が起こってる?」
馬も、人も錯乱状態。地獄絵図。
だが、これは本の序章にすぎなかった。
さらなる混沌が、俺たちを待っている。
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