第37話
遂に目的地の街並みが見えてくる。
アラディア領とは比べるまでもない大都会。
聳え立つ美しく見栄えの良い建造物の数々、中心部へ向かう程に高い建物が連なり、街全体が美しい造形物の様にすら見える。
我らがハイアルキア王国の王都――ラドクルス。
「凄いなぁ! あれが王都か!」
「うわぁ~、建物が高いですね……どうやってあんなもの建てたんだろう……」
いつもは馬車に揺られるとすぐ寝てしまうクオンも、今ばかりは目を覚ましている。
「御2人とも、窓から身を乗り出すのはおやめください!」
「ハッハッハ! まぁ初めて王都を見たらそうなりますわなァ!」
初めて王都を見て
田舎者丸出しの反応だけど許して欲しい。
あれを見て驚かない人はきっと大人でも居ない。
悔しいけど、あんなものを見せられては俺が住んでいたアラディア領が辺境の田舎領地と言われてしまうことに頷かざるを得ない。
言ったって同じ国の街。大して違いなんてないだろうと思っていたのだ。
まさか、ここまでの格差を見せつけられるとは……。
正直、複雑な気分である。
「私たち、明日からあそこで暮らすんですね……」
「馴染めるかちょっと不安になるな……」
一頻騒いだあとは、クオンと共に不安に駆られる。
これまでとは全く違う環境での生活。
今になってその実感が湧いていた。
「その不安も最初だけですぜ? 一度馴染んじまえば、今度は逆に故郷へ帰るのが嫌になるって方も多いんでさァ。王都の暮らしは便利が良いもんで、田舎暮らしの不便さを知っちまうんですわ」
「そっか……そういう事もあるんだ」
「それはそれで怖いですね……」
ヘンデルさんは多くの人を運び色々な話を聞いてきた人だ。
今の俺には良く分からないけれど、そういう人も確かに居るのだろう。
まぁ、俺はレイラが居れば田舎でも、都会でも、山中だろうが天国になるだろうけど。
「王都はデカいもんで、こうして目に見えてはいてもまだ距離がある。到着は伝えていた通り明日の昼になりまさァ。長い旅路ですが、もう少し我慢してくだせェ!」
◆
その日の夜、俺たちは王都の手前に位置する小さな宿場町に泊った……のだが――。
「何でも東の方の街道に魔獣が出たってよ……」
「マジかよ、被害者は何人出たんだ?」
「さぁな……でも、魔獣は何者かに斬り殺されてたんだとよ。牙を引っこ抜いた状態で灰狼の死体が放置されてたんで、偶然通り掛かった冒険者が駆除してくれたんだろうって話だ」
「へぇ……そりゃあ運が良かった。なら被害者は居ないんじゃないか?」
「いや、それが一台の馬車が蛻の殻になってたってよ……。その馬車の御者をやってたって男が街道警備隊へ魔獣が出たって報告したそうなんだが、警備隊が早馬で到着した時には、馬車に乗ってたはずの2人の遺体も、何も見つからなかったって――」
宿屋の食堂に4人で入ってみれば、身に覚えしかない噂話が囁かれている。
「今の話って……」
「私たちのことでしょうね……」
なんか、知らんうちに大事になってしまっている。
どうしよう……。
俺たちが馬車でゆっくり移動している間に、早馬で移動する警備隊たちは色々と動いていたらしい。
たしかに、ここに来るまでに何度かそれらしい一団とすれ違っていた気がする……。
「この場合って、街道警備隊とやらに2人の安否報告とかした方がいいのか?」
「可能な限り早くした方が良いでしょうね……。噂通りあの御者が報告したのであれば、お嬢様と私の素性も伝わっているはずです。下手をすれば故郷の方へ私たちの訃報が届きかねません……」
「は、早く行かなきゃ! 父さんと母さんが誤解してしまいます!」
「この宿場町にも警備隊の駐屯所がありやす。今から向かいやしょう」
こうして俺たち4人は急遽、街道警備隊の駐屯所へ向かうのだが、そこでまたしても問題が発生するのであった。
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