第36話
「すぅ……」
「また寝てる」
クオンとリーンさんが俺とヘンデルさんの旅仲間に加わった次の日。
俺たちの旅路は人も増えて賑やかに……なってない。
「お嬢様は、馬車の揺れにどうも弱いようでして……。酔うことはないのですが、こうして眠りこけてしまうのです……」
悪路ではそれなりに揺れる馬車の席。
それを物ともせず、クオンは穏やかな寝息を立てる。
クオンは毎日誰より早く寝て、誰より遅く起き、そして日中は馬車で寝ている。
つまり、ず〜っと寝てる。
起きるのは休憩して馬車を降りるときと食事の時だけだ。
今もフヤフヤと何事か言葉にならない寝言を発しつつリーンさんにもたれ掛かっている。
その顔はなんとも幸せそうで、見ているだけのこちらまで癒される。
「撫でたい……」
レイラが2歳くらいだったときも、こんな風にいつまでも眠りこけていた……。
あ〜我が天使様の麗しきお姿が思い出される……。
レイラ……会いたいよ。
「ルーカス様……おやめください」
気づけば俺はニヤケ面で手をワキワキと動かしクオンの頭に触れようとしていた。
リーンさんが眉間に皺を寄せて注意してくる。
「す、すみません……」
「また妹君のことを思い出して居られたのですね……?」
「はい……そうです」
リーンさんには既にレイラの話をしてある。
クオンが寝てしまっている以上、自然と俺とリーンさんが2人で話すことになる。
あとは、たまにヘンデルさんが俺たちの会話に混ざるくらいか。
「家族思いも良いですが、ルーカス様は妹君に依存しすぎでは……? 僭越ながら、その御様子だと学園生活が心配になるのですが」
「じ、自分でもちょっとそう思います……」
シスコンを悪いと思ったことは無いけど、俺も自分が5年間レイラと離れて生活し続けることができるのか、自分が心配になる。
いや、レイラも4年後には学園に来るはずだから、離れている時間は4年か……。
でも、学校に居る間は女子寮と男子寮は別れているし、学年が違えば生活域も変わる。
会う事はなかなかないだろうなぁ……。
「それにしても大変ですね……妹君も数年後にこの学校へいらっしゃるのでしょうけど、そうなればルーカス様がご卒業されたらまた離れ離れという事に……」
「ふぁぁぁぁっ⁉⁉」
「わひゃっ⁈」
そうじゃん!
俺が卒業してもレイラは学園に残る……!
え? 無理……。
「な、何事です⁉ また魔獣ですか⁉」
「お嬢様……今のは魔獣でなくルーカス様の咆哮です……」
「それはそれで何事ですか⁈」
「あ~……終わりだぁ……。俺、死ぬんだ……」
俺の発狂した声でクオンが目を覚ましてしまった。
申し訳ない。
でも、今はそれどころじゃない。
レイラと、二度も離れ離れ……辛……。
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