第35話

20時頃に一度設定を間違えた状態で投稿をしてしまいました。

混乱させてしまい申し訳ありません。 


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「おーい! ルーカス様ァ!」


 リーンさんに続いてクオンも目を覚ました頃、俺の名前を呼ぶ大きな声が街道に響く。

 次いで結構な速度で飛ばしている馬車が近づいて来た。

 ヘンデルさんだ。


 彼は安堵と疲れが入り混じった笑みを浮かべ俺に、手を振っていた。


「いや〜! 良かった! 大事無いようで何よりでさァ!」

「態々来てくれたんですかヘンデルさん!」

「当然! それより昨日は、いきなり馬車から飛び出すもんだから焦りやしたよ! 正直、今日は骨を拾う覚悟でここへ来たんでさァ……。まさか生きていらっしゃるとは」

「アハハ……物騒すぎますって」

「バカ言っちゃいけねぇ! 普通に考えたらルーカス様みたいな子供が魔獣の群れに突っ込んでいったら生きてるとは思いやせんよ!」

「勝算のない敵には向かっていかないですよ……。灰狼は何度か処理した経験があったから行けると思ったんです」

「経験って…………。それが本当だとして、『行けると思った』で死ぬ無謀な輩も少なくねぇんだ。次は勘弁してくだせぇ」


 ヘンデルさんは若干俺の言葉を疑っていそうだ。

 でも、こうして五体満足で目の前に立っている俺がいるから否定もできまい。

 

 とはいえ、ヘンデルさんの言い分は正しい。

 危険な依頼を受ける冒険者はいつだって『自分なら行ける』と踏んでいる。

 それでも死者が絶えないのが魔物狩りだ。

 自らの蛮勇に殺される……だったか?

 これもジルさんから何度も言い聞かされた事だ。


「心配をおかけしてすみませんでしたヘンデルさん。以後、気をつけます」

「気をつける……ですかい……。まあ、分かっていただければ上々」


 もうしないという確約はできない。

 同じことがあれば、やはり俺は飛び出すだろう。

『護れる人間であれ』

 これはアラディア家の家訓なのだ。

 俺にはたまたま街道に現れた灰狼を倒す力があって、困っている人が居た。

 ならばこれを無視することはできない。

 これは俺が、ルーカス・を名乗る上での絶対の法だ。


「カァ〜〜‼ 肝の据わった顔だ! 参ったねこりゃ! ルーカス様がそういう御人だってのは良くわかりやしたよ!」

「アハハ……」


 何やら呆れと感心の籠もった言葉を贈られてしまった。

 

「で? 良い加減、あっしに叱られるルーカス様を心配そうに見てる別嬪さんを紹介してくださいや」

「別嬪さん……。昨日助けた馬車の乗客ですよ」


 俺たちの会話が一区切りつくまで待っていてくれたんだろう。

 クオンが進み出て恭しく挨拶をする。

 

「クオン・エレンシアです」

「こりゃあどうも! あっしはヘンデル。しがない御者でさァ」

「我が命の恩人を運んでくださった北風の眷属に感謝を……」


 北風の……眷属?

 

「ほぉ~! 見ただけで、あっしが北方の出身とお気づきですか! まさか、ここいらでそんな挨拶をしてもらえるとは!」

「よ、良かったです……博識ぶって間違えていたらどうしようかと……」

「ハッハッハ! 随分と正直な方だ!」


 あっという間にヘンデルさんが上機嫌になる。

 どうやら彼の出身地方の挨拶か何かだったらしい。

 挨拶をする相手に合せるさり気ない気遣い……これがコミュニケーション強者か……。

 見習わなければ……。

 それはそうと――。


「挨拶が済んだ所で、ヘンデルさんにお願いがあるんですよね」

「だいたい予想は付きやすが、最後まで聞きやしょう」

「実はクオンたちを運んでいた御者が、昨日の件で一人だけ逃げてしまったようで……。よかったら俺と一緒に2人も王都まで運んでやれないかな?」


 そんな俺の提案には、即答で許可が下りるのであった。

 こうして、王都までの道行きが2人から4人になる。

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