第34話
クオンとリーンさんが仮設野営地で寝ている間、俺は夜通し外を見張っていた。
本当はリーンさんと2人で見張りをする予定だったのだけど、彼女はいつの間にか俺の肩にもたれ掛かって夢の世界に行ってしまった。
そうしていても仕方ないので、今はクオンの隣に運んで2人仲良く寝て貰っている。
今は周囲の音を警戒しつつ、焚火に薪をくべるだけの時間だ。
空は少しずつ白んできている。
そろそろこの火も不要になるだろう。
「にしても、何で灰狼なんて居たんだか……」
灰狼は珍しい魔獣というわけでもない。
けれど、奴らは基本的にこんな場所に現れる魔獣ではないことも事実。
灰狼の生息圏が標高の高い山中であるからだ。
奴らの餌食になるのは、別の魔物を追っている最中、気づいた時に山中の奥に迷い込んでしまった初心者冒険者たち。
ビギナーには『魔物を深追いすれば灰狼に噛まれる』と言い伝えられている程だ。
俺もジルさんに散々言われてきた。
「ただの偶然か……それとも…………」
この一帯の山で何かが起こっている?
分からない。
「ブライド先生に会ったら一応報告しておくか」
また1つ、久しぶりに会う恩師への報告事項が増えた。
今回のは嫌な話だが……。
◆
「た、大変申し訳ございませんでした!」
「あはは……いや、気にしてないですから」
「し、しかし!」
年上の女性に膝をついて謝られる状況というのはいたたまれない。
俺は寝起きのリーンさんから昨晩の件で平謝りされている。
ちなみに、クオンは未だ夢の中だ。随分と寝付きがよろしい。
「良いんですよリーンさん。起こさないで寝床に運んじゃったのは俺だし」
「いえ、本来これは私の務め……お嬢様を魔獣から守ることもできず、警護すらできないなんて……従者失格です」
「疲れてたんですよ。あんな事があったら当然です」
「それは寧ろ戦ったルーカス様にこそ言えるのでは……」
「俺は慣れてるので……」
野営は初めてじゃない。
冒険者とパーティを組んで依頼を受けた時は2、3日遠征することもあった。
それに、ここは安全な街道だし、正直俺も寝て良かったくらいだ。
考えごとをして朝まで過ごしたのは俺の勝手。
リーンさんを咎めるような話じゃない。
「……慣れているとは?」
「言葉通りですよ。俺は剣術の練習で冒険者と魔物狩りをすることがあったので」
「練習で……魔物狩り……⁇」
「はい」
「それは……練習ではなく実戦というのでは?」
…………ふむ。
「そうとも、言うかもしれません……」
「いえ、そうとしか…………すみません、なんでもありません……」
何やら同情的な目で見られてしまった。
なんだろう、この「複雑なご事情がお有りなんですね」みたいな目。
やめてください!
俺は至って普通の魔法使い志望ですよ!
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