第33話

 今にして思えば、俺が仲良くなってきた人たちは基本的にブライド先生という圧倒的コミュニケーション強者を通して仲良くなっていた。

 ディーノさん、ジルさん、それから他の冒険者たちも、元を正せばブライド先生を介して出会っている。

 もしかすると、俺の対人能力は数年前から育っていないのかもしれない……。

  

「あの、このままだと俺たちはこの辺りで野宿することになるかと思いまして。あんなことの後だし、お2人が気にしないなら、一緒に一晩過ごし方がお互い安心かなぁとか……思ったん、です、けど……」


 無駄な手振と共に早口でべらべら喋り出し、段々と歯切れが悪くなる。

 我ながらガッカリする話術だ。

 とりあえず、笑顔で誤魔化そうとして口角が引き攣る。

 

 こんなことなら、ブライド先生から剣術より先に処世術を習っておくんだった。

 あの人なら、こういう時もスマートに対応できそうだ。


「助かります! 是非!」

「クオンお嬢様がそうおっしゃるならば……私からもお願いいたします」


 しかし、俺の残念過ぎる誘いに2人は嫌な顔1つせず答えくれる。

 あったけぇよ……これが、人の優しさ……。


「……っく! あ、ありがとうございます! お世話になります!」

「……? こちらこそ?」


 王都に着いたら、まずブライド先生に会って友達の作り方を聞こう。

 うん、そうしよう。


 ◆


 やはりと言うべきか、灰狼から助けたお嬢さん、改めクオンは俺と同じ寄宿舎学校に入学する予定の貴族だった。

 同い年の女の子を相手に話すのは初めてだったけど、クオンは気さくな子で俺に色々な話題を振ってくれる。

 お陰で会話が途切れずに済むのは有り難いことだ。

 出会い頭は変に意識して緊張したけど、俺も彼女と話すことにだいぶ慣れた。

 

 クオンが俺の目を見ながら一生懸命話す様子は、どこか妹のレイラにも似ている。

 最近では、すっかりお姉さんになってしまいこうして俺に、甘えるような顔はしなくなったのだけど……。

 ああ、マイエンジェル……会いたいよ……。

 

「――⁉ ル、ルーカスさん?」

「あ、ごめん……つい可愛くて……」

「かわっ……! そ、それはどういうっ⁉」


 レイラへ思いを馳せていたら、いつの間にか手が勝手にクオンの頭を撫で回していた。

 心がレイラを求めている……。

 

 クオンとレイラは見た目が似ているわけじゃない。

 クオンの髪は淡い藍色、レイラは母さんと同じ栗色だ。

 髪型だってぜんぜん違う。

 レイラはフワフワで癖のあるボブカット。クオンは艶のある長いストレートヘアを後ろでひとつ結びにしている。

 全くの別物……なのに…………。

 なんだろうクオンを撫で回していると心が落ち着く。

 良くない。これは危険な兆候だ……。

 レイラを求めるあまり禁断症状が出ている。

 これ以上悪化する前になんとかして心を鎮めなくては……。


「クオン、今は何も言わず頭を撫でさせてくれないか……。必要なことなんだ」 

「ひぇぁ、あの……⁉」

「ル、ルーカス様! 何をなさっているんですか⁉」 

 

 リーンさん――クオンの従者――が俺を咎める。


「こ、心を鎮めるためにどうしても必要で……」

「よくわかりませんが、お嬢様が大変なことになっているので手を離してください!」


 リーンさんにペシッと手を払われてしまう。

 言われてクオンを見れば、顔が燃えるように赤く染まっていた。

 身体をワナワナと震わせる姿は小動物を思わせる。

 そんな姿を見て、ようやっと俺は正気に戻った。


「あ! ご、ごめんクオン! 気が動転してて!」

「はぇ? あぁ、はぃ…………」

「気をつけてくださいルーカス様! クオンお嬢様はこういった事に免疫がないのです!」

「ごめんなさい……」


 申し訳ないことをしてしまった……。

 でも、また撫でさせてくれないかな……。

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