第28話
時が流れるのは早いもので、俺はもう10歳。
このハイアルキア王国では、この歳を迎えた貴族の子息は王都にある寄宿舎学校へ入学することになっている。
在学期間は5年。
俺はそれなりの時間を学び舎で過ごすことになる。
俺の故郷であるアラディア領は王都まで馬を使って1ヶ月。
学校には年に二度は長期休暇が用意されているが、往復2カ月は流石に休暇中に収まらない。
つまり、5年間は家族と離れ離れになる。
「レイラ……お兄ちゃん、頑張るがらぁ! げんぎにずるんだよぉおおおお!」
「ルーカスにぃ様、煩い。もう分かったよ」
俺は今まさに家族から送り出されようとしている最中だ。
父様と母様に会えないのは寂しい。
でも、それ以上に溺愛するマイスウィートラブリーゴッドエンジェルであるレイラと会えないことが死ぬほど悲しい。
俺は領地を離れる1ヶ月前からレイラに毎日泣きながら抱き着いていた。
レイラも俺との別れを惜しんでくれている……。
「ルーカスにぃ様、鼻水で私の服汚しちゃダメ! 早く離れて!」
もうすぐ6歳になるレイラは、少し大人びた態度を取るようになった。
今も気丈に振舞っているが、心の中では俺と同じく涙を流している事だろう。
きっと、そうに違いない……。
そうだよね?
「ルーカス君、レイラちゃんが嫌がっているから離しておやり」
「これでやっとルーカス君が妹離れできるわね。早くレイラが居ない生活に慣れるんですよ?」
父様と母様が勝手な事を言っている。
レイラは俺の抱擁を嫌がるわけがない。
あと、俺は絶対に妹離れなんてしないぞ!
一生シスコンを貫いてやるからな!
「まったく、困った兄じゃのぉ……」
屋敷には俺を見送りにグリモルさんも来てくれている。
「家族との別れが悲しいのは普通ですよ……」
「子供らしいと言えばそうなんだがの……。まぁいい。それより、お主、学校に行ったら本当に魔法を学ぶのか? 今からでも騎士科に進む道を選べるんじゃぞ」
「何言ってるんですか。俺はグリモルさんの教えを受けた魔法使いの卵ですよ! 当然、魔法科を選びます!」
「ぜぇーったい苦労するぞい……」
ジト目で俺を見るグリモルさん。
どうやら俺の未来を案じてくれているらしい。
なんと優しい師匠を持ったことか。
「大丈夫です! 俺の意志は固いですから!」
「はぁ~~~、何故こうも修羅の道を進みたがるかのぉ。剣士としてなら既に国内でも有数の実力を持っているだろうに」
「アハハ! 何言ってるんですか! そんなわけないでしょう?」
「「「…………」」」
そんなわけ、ないよね?
「ルーカスにぃ様、もうそろそろ行かないと。町の方でも挨拶して回るんでしょ?」
「ああ、そうだった……」
「ルーカス君、元気にね。君が成長して帰ってくるのを楽しみにしているよ」
「ルーカス君は私とローグの目立ちやすい髪と目の色を両方継いでいるから、もしかしたら何か言われるかもしれないけど、学校の同級生とは仲良くするのよ。仲良くなれば、ルーカス君の優しさはきっとすぐに伝わるから……」
「行ってらっしゃい、ルーカスにぃ様」
父様は俺を笑顔で激励し、母様は少し目元に涙を浮かべて心配してくれる。
レイラは……シンプルな言葉の中に万感の意を込めているに違いない。……うん。
そして最後に――。
「達者でな、ルーカス。立派な剣士になって帰ってくるんじゃぞ!」
「だから、ならねぇよ!」
こうして、俺は家族たちに見送られ屋敷を後にした。
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