第23話

 元から気の強い俺の性格だとか、剣術の心得があったとか。

 あとは、腹を殴られたことによる瞬間的な怒りもあっただろう。

 でも、俺が恐怖を乗り越えた一番の理由は……信頼できる武器をこの手に持っていたからだ。


 あのゴブリンが再び棍棒を振り上げた時、次は頭に来ると直感で分かった。

 あんなものを頭にくらったら、ひとたまりもない。

 そう思った頃には、脊髄反射で黒翅を振り抜いていた。

 

 ――この剣があれば俺の方が先に殺せる。


 頭とは違う何処かに、そんな考えが浮かんでいた。

 こういうのを心言みこととでも言うのかもしれない。

 とにかく、俺は脳ミソとは違う何かの指示で身体を動かした。


「こんな、あっさり……」


 転げ落ちたゴブリンの頭を見て、今さら心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。

 自分が数瞬前に死にかけたことを頭が理解し始めていた。

 でも、まだ動揺している場合じゃない。

 後ろにはあと5匹いるのだから。


「ゲギャァァアアアアア!」


 仲間を殺された恨みなんてものをゴブリンが持つのかは分からないが、1匹が怒号を上げている。

 そのままそいつは俺の方へ棍棒を振り上げて突っ込んできた。

 その動きは、少し前にやりあったジルさんの構えに似ている。

 力いっぱい得物をぶん回すだけの単調な動き。

 しかも、相手はジルさんより遥かに小さく、ひ弱だ。


「王国式柔剣術 弐ノ型≪蛇穿咬踊≫」


 相手の武器は剣じゃない。でもなんとなく行ける気がした。

 ゴブリンが振り下ろす直前に、棍棒を絡めとる。

 そして、手首ごと宙を舞った。


「ゲバ⁉」


 そのまま胴体を切り飛ばす。

 これで2匹。


「おいおい、意外と賢いのかよ……」


 なんとか2匹目を倒したところで、俺は残り4匹に取り囲まれていることに気づいた。

 仲間を呼んだり、奇襲を仕掛けて来たり。

 さらには連携まで……。

 ゴブリンという魔物を俺は侮っていた。

 今度は1匹で突貫してきたりはしない。

 奴らはジリジリと四方から俺に迫る。


 ――考えるな……直感で刈り取れ!


「ギャギャギャ!」


 俺の背後を取っていた1匹がデカい声を出す。

 俺は咄嗟に身体を背後に捻り――全力でゴブリンへ突進。


「王国式剛剣術 弐ノ型≪渉断剣≫‼」

 

 咄嗟に出たのは柔剣術ではなく、ほとんど練習したこともない剛剣術の技。

 俺がどうあがいても対応できなかったブライド先生の力技。

 俺の体格ではまだまだ威力が弱い。

 でも――。


『叩ききりたい同年代の子供がいるなら試してみるのはありです』


 いつだった先生が言ったクソみたいなジョーク。

 相手は人間の子供ではないけど、俺とそう変わらない体格のゴブリン。

 一瞬の閃きだった。

 

 まずは背後にいたゴブリンへタックルをぶちかます。

 ナイフを振り上げたまま後ろに体勢を崩した敵へ、そのまま振り向きざまに加わった遠心力を乗せた最速の横切りをお見舞いした。


「ゴヴェ!」


 これで3匹。

 間髪入れず、俺は次の標的に目を向ける。

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