第22話
とある動物は我が子を鍛えるために敢えて死地へ送り込む。
そんな話を聞いたことがあった。
随分と残酷なことをする生物が居たものだと、俺の脳裏にはそんなことを思った記憶が残っている。
その生物というのは、もしかしたらブライドという名前だったかもしれない。
……まぁ、そんなわけがないけど。
「チックショー! あの野郎! もう許せねぇ! 今まで色々あったけど、これまでの信頼関係が一瞬にして崩壊したわァ!」
抑えきれない怒りを口に出して放出する。
今は頭に血を昇らせている場合じゃない。
俺は、4匹のゴブリンに追われている――。
「グヴァアア!」
「ゲギャギャ!」
聴こえてくる声の感じからして、まだそれほど近くはない。
でも、慣れない森の中、しかも剣を持って走り回るのは疲れる。
いずれ追いつかれるのは目に見えていた。
「クソッ、多分アイツら無意味に声を出してるんじゃねぇ……。ああやって叫んで仲間を呼んでやがるんだ……」
最初は2匹だった。
それが、いつの間にか倍に。
このまま
考えるだけでも
「やるなら早期にだ……。でも、複数相手なんて経験したことないぞ……」
本当は分かってる。
言い訳をして戦いから逃げている場合じゃない。
でも、怖い。
この震える足で逃げ続けられているのが奇跡だ。
「グォオオオオ!」
「グゲゲゲ!」
ゴブリンの声を聞いて後ろをチラリと振り向けば、いつの間にか5匹になっている。
やっぱり仲間を呼んでいるんだ。
そんなことを思った途端、俺の腹に強い衝撃が走る。
「ぐっ――⁉」
俺の身体は後ろへと傾き、バランスを崩して背中から倒れた。
倒れたとき、背中を強く打ち付けた。
息をするのも苦しい……。
「グッブブブ」
今度は声が俺の前から聞こえる。
どうやら、後ろに気を取られた瞬間、俺の進行方向からゴブリンがやって来ていたらしい。
見れば、その一匹は棍棒を手に持っている。
あれで腹をぶん殴られたのか……。
でも、刃物じゃなくて良かった。
俺は少し前に見た得体のしれない汁を
「ふごぅちゅの幸い……てか」
独り言を呟てみると、痛みで呂律が回らない。
立つのもやっとだ。
だけど、今動かないと殺される!
『死』
頭の中が、その言葉で支配されそうになる。
しかし、強い恐怖を感じる俺の心情とは裏腹に、不思議と足の震えは止まっていた。
「ゲバァァアアアア!」
俺を殴ったゴブリンがもう一撃お見舞いしようと棍棒を振り上げている。
それを見て、俺は――。
「フッ――」
短く息を吐き出す。
そして、倒れ込んでも手放すことはなかった黒翅を一振り。
「ゲ? ……グ……ギャ?」
不思議そうな声を出しながら、目の前のゴブリンは頭を地に落とした。
まずは、1匹。
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