第20話

 ジルさんとの一幕が終わると、俺たちはギルドの受付へ向かう。

 あれで話は終わったと思ったのだけど、どうしてか俺の後ろには冒険者たちがぞろぞろと付いてくる。


「あの、ブライド先生……どうして人が付いてくるんでしょうか?」

「ジルとの手合わせを見てルーカス様に興味を持ったのですよ。今からどんな依頼を受けるつもりなのか、後ろから見てやろうって魂胆です。要は、ただの出歯亀ですよ」

「冒険者ってそういうものなんですか?」

「実力を持つ人間がどんな仕事をするのか興味を持つのは当然です。それがルーカス様のような目立つ存在であれば尚の事」


 俺が目立っているのは場にそぐわない子供だからってだけな気がする。

 けど、それを言ったらまた嗜められることは容易に想像できるから口にしない。

 ハンディキャップありの手合わせとはいっても、ジルさんに勝った俺がナヨナヨしていては彼のメンツにまで傷を付ける。

 そう言う事になるらしい。

 

「今日は私が付いて行きますけど、次からルーカス様がお一人で依頼を受けるか、自力でパーティメンバーを集めていただくことになります」

「これからも一緒に受けてもらうってのは……?」

「私は冒険者を引退したのですよ。これが終われば、本来の職務である新人冒険者の育成に戻ります。領主であるローグ様きっての願いとあってルーカス様の育成に尽力してまいりましたが、正直こちらの仕事も大切なのです」


 本業の話をされては強く出られない。

 どうあっても俺は今後自力でやっていかないといけないらしい。

 

「……そういうことなら、俺と暫くパーティを組んでみるか?」

「『大物喰らい』と呼ばれる貴方とルーカス様では仕事が被りませんよ」

「まぁ、そこは俺がルーカス様に合わせてだな……」

「そうなれば、誰がこの一帯のデカ物を相手にするんですか……。いいからジルは求められている仕事をやってください」

「チッ……」

「やっぱりジルさんは普段大きな魔獣を相手にしているんですね」

「ああ、俺は『重戦士』の才能タレント持ちだからな。小さくてすばしっこい相手は苦手なんだ」


 やっぱりそうか……。

 やけに動きが緩慢だと思ったけど、速さより一撃の重さを意識したパワープレイ主体の戦い方がジルさんの本領なのだろう。

 

 重戦士。

 俺には全く縁のなかった才能だが、そいうものもある。

 斧槍ハルバード戦槌ウォーハンマーあたりが本来の武器。

 普段はあんな軽い木剣を振ること自体が珍しいはず。

 思った通り、さっきの試合はガッツリ手抜きされてたわけだ……。


「つっても一応、剣士の才能値も平均よりは高めなんだぞ? ルーカス様と比べたら話にならねぇだろうがよ」

「あはは……どうでしょうね…………」


 俺の才能値をさり気なく詮索している雰囲気。

 悪いけど言えることはない。


 それにしても、重戦士に加えて剣士の才能持ちとは……。

 俺も複数の才能を持っているが、それは貴族だからだ。

 実は、平民からすれば才能というのは1つであることが当たり前――中には才能を持たずして生まれる人もいる。

 そんな中での複数才能持ちマルチタレント

 下手したら何処かの貴族の傍流だったりするかもしれないな……油断ならないぞこの人。


「へへっ、易々と才能値は明かさない……か。良い判断だ」

「ジル、いつまでもルーカス様に絡んでいないで、自分の依頼を受けて来なさい」

「おいおい、依頼を受けるならどの道行き先は同じだろうが。受付までだよ」

「どうでしょうね。貴方はちゃっかりしてますから、何だかんだ言って付いて来そうです」

「狩場が偶然被ることはよくある話だよなぁ?」

「これですよ……全く」


 俺の警戒を他所に、二人の軽口は続く。

 そうして二人の話を聞きて暫く歩けば、俺たちを受け付け嬢が迎えた。

 

 その後は何と言う事もなく、俺はゴブリン退治の依頼を受けギルドを後にする。

 後ろで俺が受ける依頼内容を見てガッカリした顔をする冒険者たちがちょっと面白かった。

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