第19話

「どうでしたか、ルーカス様」

「どう、と言われても…………」


 今の剣の打ち合いに思うところなどない。

 ただ真っ直ぐに突撃してくるジルさんに型通りの≪流閃≫を合わせるだけの作業だった。

 

「ウォーミングアップにもならなかったようですな」


 当たり前だ。

 3戦やって全て一合で終わってしまったのだから疲れるわけもない。

 お手柔らかにとは言ったけど、あそこまで手を抜かれるとちょっと申し訳なくなる。


「あの、すみませんでした……。随分と気を使わせてしまったようで……」


 俺はジルさんに小さく謝罪する。

 他の冒険者たちも見ている中で俺に花を持たせる為に負けを演じさせてしまった。

 彼にもメンツというものがあるだろうに……。


 けれど、ジルさんは俺の謝罪を受けても反応が薄い。

 彼は俺のことをまじまじと見つめていた。


「……ルーカス様、ブライドに剣を習ってどれぐらいで?」


 ようやくジルさんが口を開いたが、出てきたのは脈絡のない質問だけ。

 修行期間に関しては別に誤魔化す必要もない。


「……今は剣を始めて半年くらいですね」

「半年っ⁉」

「ルーカス様は剣神の寵愛を受けたお方なのですよ。彼は私と出会ってからの半年間で王国式柔剣術の全ての型をマスターし、秘奥義にまで至っています。成長されれば剛剣術も楽に使いこなすでしょう」


 ジルさんの驚いた様子を見て饒舌になるブライド先生。

 誰の話ですか? 剣神の寵愛を受けてるって……。


「正直、並の剣士じゃないことはルーカス様が剣を握った瞬間に理解させられていた……。立ち姿に隙がなかったらな」

「そうでしょうな。彼は初めて剣を持った日から構えに関しては完璧でした。柔剣術の型をマスターした今となっては難攻不落の城壁の如く突破困難です。現に、私は既に彼に剣を当てることが叶わなくなってしまいました」

「……嘘でもお前がそんなことを言うはずがない…………つまり、本当の事なんだな?」

「もちろんですとも」


 それはちょっと聞き捨てならない。

 ブライド先生は俺を担ぎ過ぎだ。

 

「剛剣術を主体にしたスタイルなら押し切れるじゃないですか……持ち上げすぎるのはやめてくださいよブライド先生……」

「ハッハッハ! 体格だけで押し切る勝ち方しかできない実力で、剣で勝てると言い張れるほど希薄なプライドは持ち合わせていないもので」


 俺からすれば持てる力で撃ち勝てるなら格上を主張していいと思うんだけど……。

 これが心から剣士の道を志す人と、諸事情で剣術を齧っているだけな俺との違いなのだろうか。


「過度な謙遜は嫌味だぜルーカス様。アンタの剣技は見事だった。強い剣士ってのは堂々とするもんだ」


 ジルさんから思いのほか強い口調で嗜められてしまった。

  

「その通りです。ルーカス様、強者はその姿勢を持って自らの矜持を示さねばなりません。例え、それが剣士でなくとも」

「……そういうものですか?」

「そういうものです」


 冒険者の流儀は難しい……。

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