第18話
子供に挑む勇気もない雑魚は帰れ的な煽り文句を受けた冒険者たちはこぞって俺に戦いを挑んできた。
「ルーカス様に恨みはねぇが、ブライドの言葉を見過ごすわけにもいかねぇ! 悪いが1戦付き合って貰うぞ!」
青筋を額に浮かべたジルさんに俺はガッシリと肩を掴まれる。
痛い痛い痛い……やめて…………肩折れちゃう。
「ジル! ちょっと待て! まずは俺からやらせろ!」
「いいや、俺からだ!」
俺を潰そうと意気込む屈強な戦士たち。
もうあれだ、世紀末って感じ。
控えめに言って地獄。
「あの……いくら何でも全員の相手は出来ないんですけど……」
「まあ、そうだわなぁ……。よし、テメェら! 悪いが今回は俺に譲ってもらうぞ‼」
「はぁ~~~⁉ ジル! 何を勝手言ってんだ!」
「うるせぇ‼ 元はと言えば、ルーカス様に声をかけたのは俺だ! 見物決め込んでた外野はすっこんでな!」
早い者勝ちだとでも言うように、ジルさんは俺への挑戦権を主張する。
そして、他の冒険者たちは悔しげな表情を浮かべると仕方なさそうに引き下がった。
丸く収まって一件落着。
しかし君たち、大事なことを忘れてないか?
俺の意志はどうなってる?
「あの、そもそも俺は勝負を受けるなんて言ってないんですけど……」
「ルーカス様、これも魔法使いになるためです!」
「流石に騙されねぇよ! なんの関係があるってんですか⁉」
無茶苦茶言い始めたブライド先生に思わずツッコミを入れてしまった。
流石に俺のことを舐めすぎた。
魔法使いって言葉を出せば何でも言うことを聞くと思いやがって!
「ルーカス様が勝ったら、グリモル様の説得に私も口添えしてあげますよ」
「よしっ! 今すぐやろう!」
「やっぱりチョロいですなぁ……」
畜生……本能には勝てなかったよ…………。
◆
「では二人とも、よろしいですかな?」
俺とジルさんはブライド先生の確認に頷いて答える。
俺もジルさんも武器は木剣。
さっきまでハルバードを担いでいたジルさんだ、剣士が本業という事はないはず。
これはブライド先生とジルさんなりの大人の配慮という奴なのだろう。
そもそも件に木剣を向けるなと言いたいが。
「あの、本当にお手柔らかにお願いしますね……」
「………………」
ジルさんに小さい声で手加減をお願いしたのだが、返事はなかった。
先ほどから彼は構える俺の姿を鋭い目つきで睨みつけている。
どう見ても本気だ。大人げないとは思わんのかこの巨漢……。
俺はブライド先生以外の剣なんて見たことないし、ボコボコにされる未来しか見えないぞ。
「よろしいようですな! ……では、始め!」
さらっと開始の合図が流れる。
「ゼァァアアアア‼」
開幕からジルさんの咆哮が響く。
彼は一直線に俺の方へ突っ込んできた。
しかし、なんというか……めっちゃ遅い。
ジルさんはそのまま何の捻りもない上段からの縦振りを放つ。
鈍く空気を割くブ~ンという風切り音。
こんな鈍い剣閃は見たことがない。
フェイントを疑ったけど何らかの変化が加わることもなく、そのまま木剣が迫ってくる。
それを見て、俺は
「……マジかよ」
「なんだあの坊主の動き……」
「剣が生き物みてぇにぐにゃぐにゃ曲がって見えたぞ」
なぜか俺たちの模擬戦を見ていた冒険者たちは驚いている。
今のやりとりに特別な事はなかったはずなんだが……。
「あの、一撃当てはしましたけど……。これってもう終わりですか?」
「そうですねぇ……流石にこれでは味気ないので、三本先取にしましょう。ジル、次はもう少し真面目にお願いしますよ? 流石にそれではお話になりません」
「あ、ああ……」
ブライド先生の煽りとも受け取れる発言に、ジルさんは怒りを示すこともなかった。
さっきはあんなに激昂していたのに……。
そして、次こそは冷静になったジルさんにボコボコにされる……とうこともなく、俺はあっさりストレート勝ちして模擬戦は幕を閉じるのであった。
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