第17話
「いやはや……久しぶりに来てみれば、随分な言い様でしたねぇ? 君たちには抱えきれない愛を注いできたつもりなんですが……」
出入口の前に立つにこやかなブライド先生を見て、先ほどまで声を上げて笑っていた冒険者たちが静まり返る。
ブライド先生に視線を向けられると怯えたように目線を逸らす人まで……。
「マジかよ……本当にブライドがガキの教師をやってるのか?」
俺の目の前に立つ屈強な男は、目を見開いて驚いていた。
それほどまでに信じられないことらしい。
「ブライド先生、何で最初から一緒に入ってくれないんですか……」
「いえ、ちょっと私が居ないパターンの様子を見てみたくてですね」
「こんな風にドッキリを仕掛けようって? 性格悪いなぁ……」
「ふふふ、エンターテイナーなもので」
何がエンターテイナーだ……。
それにしても、冒険者たちの様子を見るに全員ブライド先生の事を知っているらしい。
というか、あから様に怖がられている……。
いったいどんな訓練をしていたのやら。
「ブライド! お前、久しぶりに顔を出したと思ったら、こりゃあ何の冗談だ? この坊主が依頼を受けるだとか言ってんだが? というか、ガキのお守をしてるって?」
「久しぶりですねジル。依頼を受けるというのは冗談ではありませんよ。この子は私の弟子です。まぁ、もう私はお役御免になりましたが。それと、ルーカス様は立派な剣士。『ガキ』などと嘲った呼び方は控えてください」
「お、おう……すまなかった。ルーカス……様も悪かったな」
「俺は全然気にしてませんから大丈夫ですよ」
俺に話しかけてきたハルバード持ちの巨漢はジルというらしい。
彼はブライド先生とは親しい仲にあるのだろう。
短い会話だけでも二人の仲がそれなりのものだと分かる。
ブライド先生が変な事を言うからちょっと気まずそうな雰囲気になってるけど……。
「にしても、お役御免って? 厳しくしすぎてクビになっちまったのか?」
「相変わらず失礼な男ですなぁ。それならこうしてルーカス様と一緒に行動しているわけがないでしょう。彼は訓練を乗り越え、王国式柔剣術の免許皆伝に至ったのですよ。彼に指導することがなくなった私は、教師の立場から退いたのです」
「……………………は?」
ジルさんは口をあんぐりとあけてブライド先生と俺を交互に見る。
ブライド先生の言っていることは聞き取れたけど、理解はできない。
彼のそんな思考が見て取れる。
「おい、ブライドさんがおかしなことを言ってるぞ……」
「王国式柔剣術の免許皆伝? あの子供がか?」
「あれ本物のブライドさんかよ……。ちょっと誰か確かめてこい」
「嫌だよ、お前が行けって」
周囲の冒険者たちも俺が免許皆伝を受けたことが信じられないらしい。
そりゃあそうだ。なんせ、俺自身が信じてない。
俺に免許皆伝なんて取れるわけないじゃんね。
やっぱりブライド先生がおかしいんだって……。
「ふふ、信じがたい気持ちも分かりますがね。私は冗談を言っているわけではありませんよ。信じられないのなら、今ここでルーカス様と手合わせをするといいでしょう」
「はい? 勝手に何言ってるんですか?」
「良いではありませんか。実戦前のウォームアップです」
緩い感じでとんでもないことを言い始めたブライド先生。
俺だけじゃなく、ジルさんも、そしてこの場に居る冒険者たちも同じことを思ったはずだ。
『コイツ、正気なのか?』と。
「まぁ、ルーカス様に勝つ自信のない雑魚は冒険者なんぞ辞めて田舎に帰ることをお勧めしますが」
「「「なんだとコラァァアアアアア⁉」」」
そして、ブライド先生の余計な一言で冒険者たちは頭に血を昇らせるのであった。
勘弁してくださいよ……。
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新作を公開しました!
タイトル:
軍を辞めて幼馴染と結婚するつもりだった私、辞め際に上司へざまぁしたのがバレたあげく、公爵様に目を付けられて専属文官にされてしまった件
URL:
https://kakuyomu.jp/works/16818093079942056606
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