第12話
冷静に考えれば分かることなんだけど、木より鋼は重い。鍛冶屋に来た俺は、早速店頭に並ぶ剣を手に取ろうと試みて、その重量に絶望した。
コイツ、びくともしないぞ…………。
「あの……ブライド先生、剣を持てません…………」
「そうでしょうなぁ。子供がそんな重い物を持てるわけが有りますまい」
ブライド先生の言葉を聞いた俺はガックリと項垂れる。ブライド先生の方は、そんな俺を見て苦笑していた。
「では俺はいったい何をしに鍛冶屋へ来たので……? てっきり武器を購入するものと思ってましたが? もしかして、包丁でも買えと?」
「ハッハッハ! ルーカス様であれば、それでもなんとか成りそうですな!」
「なるわけあるかァ!」
ゴブリンは弱い魔物と聞いているけど、流石に素人が包丁を片手に突貫するのは自殺行為だ。そんなもん魔物と対峙したことのない俺だって知ってる。
そんな簡単に対処できれば、討伐依頼が冒険者ギルドに届くこともないのだから……。
「お戯れは程々にしてくださいよ、ブライド先生」
「……私としては、ふざけているつもりはないのですが。まぁ、良いでしょう。ここには、とある剣を受け取りに来たのですよ」
「とある剣……?」
ブライド先生の意味ありげな言い回しが気になって聞き返す。けれど、俺の疑問に答える前に、ブライド先生は店先に姿が見えなかった店主から声をかけられる。
「おぉ! ブライド! 来おったな?」
「どうも、ディーノ殿。例の物は出来ておりますかな?」
「おう! 完の壁ってなもんよ! しっかし、本当にあんな素材で作った剣で良いのか?」
「ええ、王国式柔剣術に特化した仕様なので、重さは必要ないのですよ」
「ハハァン……取り回し重視ってことか。それにしても、アンタには軽すぎやしねぇか?」
「ええ、私の剣ではありませんからな」
そう言って俺の方をチラリと見る先生につられて、ディーノと呼ばれる鍛冶師は俺に気づいた。
カウンターからだと背の低い俺は見えにくかったようで、先生に言われるまで俺に気付いていなかったようだ。
「は、はじめまして。ルーカス・アラディアと申します」
俺は咄嗟に簡略式の挨拶をディーノに送る。
「アラ……ディア? 領主様の親族ですかい⁉」
「はい、俺はローグ・アラディアの息子、長男です」
なかなか屋敷の外に出ない俺は領内の人間に顔を知られていない。人によっては名前も覚えちゃいないだろう。
「じ、時期領主様⁉ こ、こんな格好で失礼しました!」
「こんな格好ということはないでしょう。それはディーノさんの仕事着、正装とお見受けします」
途端に畏まってしまうディーノさん。片膝をつことする彼を俺は手で制する。
「いいですよ、そういうのは。今日は先生の弟子としてここに来ただけなので」
「先生……? 弟子……?」
「ええ。ディーノ殿、この方は我が剣の愛弟子なのですよ。まあ、もう私はお払い箱になったあとですがな! ハッハッハ!」
陽気に笑うブライド先生。
言い方が悪すぎる……。
「ま、まあ、そういうことなので。俺のことはあまり気にしないでください」
ディーノさんは俺のことをジッと見ると、何やら嬉しそうな顔になる。
「この領地の将来は明るいですな……」
「ええ、私もそう思っておりますぞ」
何もしていないのに感心されてしまった……。
いや、そんなことよりもだ。
俺には、気になっていることがある。
「ところで、先程お二人が話していたことはいったい……?」
「それは、私からルーカス様への贈り物ですよ」
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