第11話

 夕食の席で、俺はブライド先生から魔物討伐に誘われたことを父様へ告げる。


「もう自分から教えることはないから、次は実践に行くのが良いとブランド先生に言われまして……流石にダメですよね?」


 俺の年齢は未だ8歳。相当な阿呆でもちょっと考えれば分かることだ。俺に魔物狩りなど早すぎる。

 だが――。


「ふーん。良いんじゃないかい? ルーカス君の成長はブライド先生から聞いてるからね。もう免許皆伝なんだって? むしろ遅すぎるくらいだよ」


 まだ剣を持って半年なのだが、いったい何を思って「遅すぎる」とか言っているのだろうか。

 自分で聞いておいてなんだが、絶対に却下されると思っていた。というか、却下して欲しかったよね、親として。


「いや、でも魔物ですよ? 危ないですよ?」

「……ルーカスにぃ様、怪我する?」


 俺の言葉を聞いていの一番に反応を示すのはレイラだった。彼女は目を潤ませてこちらを見ている。怖がらせてしまったらしい。

 このままではいかん!


「大丈夫だよレイラ! 俺は怪我なんてしない! 魔物くらい余裕さ! ボッコボコにして無傷で帰って来るとも!」

「ホント⁉ ルーカスにぃ様凄い!」

「うんうん、そうだね。じゃあ、明日にでもブライド先生と行ってくると良いよ」

「ん?」

「ミーアもそれでいいかい?」

「ええ、私はもうルーカス君の心配はしていないもの」

 

 あれれ?


「いってらっしゃいルーカス君。気を付けてね」


 そんなわけで、俺の初実戦が決定してしまった。

 おかしいだろ。


 ◆

 

 朝方、ブライド先生が俺を迎えにやってくる。

 彼は腰にサーベルを携えている。いつもの事なのだけど、それを見た今日の俺はふと思い至ることがあった。


「あの、そういえば俺って木刀以外持ってないんですけど……。魔物狩りって木刀じゃ流石に無理ですよね?」

「おお……なんと…………今更過ぎてお思いもよらなかったですな。失礼、鍛冶屋によっていきましょうか」


 額をペチリと叩いて態とらしく『やっちまった』とでも言いたげにするブライド先生。

 絶対に分かってたでしょ……。


「というか、真剣を振らずして実戦とか大丈夫なんですか? やっぱ止めた方が……」


 ぶっちゃけ怖い。だって真剣を持ったこともないのに実戦とか無理すぎる。

 昨日はレイラの手前あんなことを言ったけど、当日になってみると足がすくむ。

 父様も母様も人でなしが過ぎるだろ! 俺、8歳ぞ⁈ 魔物狩りとか無理だよ!

 

「誰でも初めてはありますよ。大丈夫です。一応、私もいますからな」

「そんなご無体な……」

「やれやれ、ルーカス様。実戦を知らぬ故そのような反応になるのは分かります。しかし、貴方は私の攻撃にも完璧に対応できる腕前なのです。今さらゴブリンに怖気ずく必要などありません。それとも、ルーカス様には私がゴブリンに劣る剣士に見えますか?」

「いえ、そもそもゴブリンを見たことがないので比較できないんですが……」


 当然だ、俺が住んでいるのは辺境とはいっても町の中央部。仮にも貴族家の長男である俺が、日常的に魔物が現れる場所に住んでいるわけがない。生まれてこの方ゴブリンに限らず魔物なんぞ直で見た経験はゼロだ。

 俺にある魔物の知識は、本で学んだ内容と父様に聞いた話の中のものだけだ。


「ハッハッハ! なるほど、それは然り! ルーカス様にゴブリンなんぞを見る機会はなかったでしょうな! では、それも初体験という事で……」

「初体験の連続が過ぎる!」

「まぁまぁ、通過儀礼と思いましょう。ほら、あれですよ。この経験はきっといつか魔法使いになった時にも役に立ちます。魔法でゴブリンと戦うこともいずれあるかもしれませんぞ?」


 ………………ふむ。


「ゴブリンは魔法で倒すよりも剣で相手する方が断然厄介ですからなぁ。剣技でゴブリンを圧倒して自信を付ければ、魔法で倒すなど造作もないでしょう。今のうちに自信を付けるのは将来的にアドバンテージとなるでしょうなぁ。使


 やれやれ、先生は俺が『魔法使い』という言葉に流されやすい坊やだと思っていらっしゃるようだ……。

 はぁ~~~、やれやれ。


「早く行きましょうか先生! なんだかやる気が出てきました!」

「……ちょろいですな」


 その通りですが?

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