第10話
「早いもので、私が指導をするようになって半年の時が経ちました。……残念ながら、私から教えられることはもうありません。本来であれば、2年間の契約で貴方の面倒を見る予定でしたが、これからさらに1年半もの時間を私がいただく訳にもまいりません。本日付けで、私は指導者の任から降ります」
「ブライド先生……俺はまだまだ貴方から教わることが……」
「いいえ、もう私からは何もお教えすることはできません。もう次のステージに進むときが来たのですよ、ルーカス様」
「しかし……」
「いや、だから……もう無理ですって」
「でも……」
「無理なものは無理ですから! 本当に! もう私からは何にも出てこないのです!」
「そんなこと言わんと……」
「良いから解放してくださいよ! もう何やっても貴方に剣を当てられなくなったんですよ私は! 私が全く扱いきれなかった王国式柔剣術の秘奥義まで体得したんです! 免許皆伝! それで満足してください!」
ブライド先生は投げやりな言葉で俺の制止を振り切る。
ちなみに秘奥義を体得したというのは言い過ぎだ。確かに俺は半年間で柔剣術の5つの型を全てマスターし、先生の攻撃であれば全ていなしきるまで剣技を磨き上げた。とはいっても、流石に奥義を体得したと言える程の技量はない。
そもそも、先生自身も秘奥義に関しては完璧に放つことができないのだ。俺は先生の未完成の技を見て勝手にそれを補完した。先生はそれを見て、「もうそれで完成って事でいいですよ。むしろ私が見た本物より強そうです」とか適当なことを言っていた。でも、流石にこれでOK判定は適当すぎると思う。
「真面目な話で、先生が居なくなったら俺はこれからどうすれば良いので……?」
「まぁ、正直この辺りで私以上の剣士を探すのは難しいでしょうな……。仮に私以上の剣術士を遠路はるばる連れてきても、1年も持たずしてお払い箱になる気がしますし。もう、自己流の新剣術とか作ったらどうです? ルーカス様が新たな流派の始祖になってください。もうそれくらいしか私には想い付かないですな」
「それは流石に……俺、剣士になる気ないですし」
「またそれですか……。初めてそれを聞かされた時からルーカス様の正気を疑い続けてきましたが、いい加減にしてください。冗談にしても質が悪すぎます」
全く以て冗談をいっているつもりはないのだけど、ブライド先生は俺が剣士の道を選ぶ気がないと聞いた時から一向に信じない。
半年間真剣に剣術をやってきたが、それでも俺は魔法使いを諦める気にはならなかった。今も定期的に
「まぁ、その話は一旦置くとして……先生が居なければ技の掛け合いも難しいですし、剣術の訓練がなりたたないのですが」
「魔物でも相手にしてみては如何です? 私も出会った当初はルーカス様の年齢もあって実戦は早いと思っていましたが、今にしてみれば実戦経験もなく技ばかり鍛えすぎてしまったという反省があります」
「魔物……ですか?」
「ルーカス様は身体が小さい故、大型の魔物を相手にしては分が悪いでしょうか……。そうですねぇ、村の近くに巣を作ったゴブリンの殲滅とかなら丁度いいんじゃないですか? ゴブリンは小柄ですし、基本武器は棍棒とナイフ。柔剣術をマスターしたルーカス様ならば完璧に捌ききれるでしょう。餞別として、最初の1回はお供しますよ。必要ないでしょうがね」
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