第9話
休憩に入るとレイラはしたり顔でランチボックスを庭に広げる。
どうやらレイラが母様を手伝ってサンドイッチを作ってくれたらしい。
ちょっと形の崩れたお手製サインイッチを俺の前に掲げて自慢げにする姿がめっちゃラブリー。
ウチの天使は今日も絶好調だった。
「レイラ凄いでしょ!」
「ああ! レイラは天才だな! 天使! 神! 最強!」
「んふふ~…………………………いやー!」
俺が撫で繰り回すとほっぺをモチモチにした笑みを浮かべるも、ちょっとするとイヤイヤモードを発動するレイラ。複雑なお年頃だ。
撫でまわして髪型を崩したのがお気に召さなかったのかもしれない。ごめんよ。
ところで、昨日は「ルーカス君を虐めるクソミソ教師を三枚下ろしにして夕飯のオカズにしたる!」みたいなノリだった母様は、いざ訓練を見ると静かになっていた。
「あ、あの、どうでしたか、母様?」
恐る恐る今日の訓練の様子を見てどう思ったのか聞いてみると、母様は何やら感心したようで答える。
「凄かったわ……」
「で、ですよねっ! ブライド先生は凄いんです!」
「ええ、先生ももちろん素晴らしかったけれど……ルーカス君の成長が……」
「ですな。私もルーカス様の成長速度には驚かされていますぞ。まだ二日目でこれ。一年もすればどうなることか……」
いつの間にか俺の隣に座っていたブライド先生はウンウンと頷きながら母様の言葉に同意する。
俺を置いて2人で通じ合わないで欲しい。
「成長も何も……まだ教わった型を2つばかり見よう見まねで使える程度ですが……」
「それが出来るようになるまで、本来は何年も時間を要するのですよ。ハッキリ言ってルーカス様は異常です。正直、剣士の才能値400という言葉を疑う気持ちもありましたが、この二日でその疑念は綺麗さっぱりなくなりました」
何気ない会話。レイラはそこへ突然爆弾を投下する。
「……? ルーカスにぃ様、400じゃないよ?」
「あっ、レイラ、それは……」
「あらあら……」
母様は頬に手を当てて「やっちゃった」みたいな顔。
適当に才能値を誤魔化していることを二人に伝えたなかった俺が悪い……。
俺たちの反応を見て、ブライド先生はにんまりと破顔する。めっちゃ怖い。
「おやおや……400じゃない、とは? どういうことですかな、ルーカス様?」
こうして、俺の嘘は二日目にしてあっさりとバレるのだった――。
「あ、ありがとう、ございました……」
「お疲れさまでしたルーカス様! 流石ですな! 今日一日で三ノ型までを習得するとは! もはや驚きもありませんぞ!」
流石に才能値が『∞』であることまでは明かさなかったものの、ブライド先生には本来の数値が400を遥かに超えていることは伝えた。
目を見開き、身体をガタガタを震わせた先生は「あ、あのS級冒険者オーウェルをも超える才能……」などと独り言を呟くと、突然涙を流した。
「このブライド! ルーカス様を必ず最強の剣士に育てて見せます!」
エキサイトした先生による休憩後の教育はさらにスパルタ化し、俺の身体はまたしてもボロボロに……。
暴走するブライド先生を止めてくれるかもしれないと期待した母様は「今日の様子を見てルーカス君なら大丈夫と判断したわ!」とか笑顔でOKサインを出してしまった。まさかの裏切りである……。
おかしい、俺はサブ職として軽く剣術を学びたかっただけなのに……。
こうして、ブライド先生の剣術指南は日々激化していくのであった。
そして、半年の時が流れる。
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