第8話
結論から言うと、弐ノ型も半日で習得できた。
「私が苦しんだ歳月はいったい………………」
ブライド先生は落ち込んでいる。というか、拗ねてしまった。
「なんか……すみません…………」
「ふふ、これが才能値の暴力ですか……まぁ、私も若い頃は散々才能値で他の剣士にマウントを取っていましたから、因果応報という奴なんでしょうな……」
溜息を吐いて自己完結する先生は、どこか哀愁漂う。
ところで、先生から新たに授かった弐の型なのだけど、たしかにその難易度は壱の型と比べれば遥かに高いものだった。
相手の剣へ這わせるようにしてカウンターを決める壱ノ型に対して、弐ノ型はまるで舞踊のように剣を滑らかに振り敵の剣を絡めとる。
その様子はまるで標的に纏わりつく蛇のようでもあった。
王国式柔剣術 弐ノ型≪
「正直、壱ノ型で先生の攻撃を流し続けるよりも、剣そのものを奪いに行く弐ノ型の方が対処としては楽ですね」
「それができればそうなのですが……普通、弐の型の成功率は非常に低いのですよ」
「そうなんですか?」
「当然です、剣を払い落すには壱の型よりも深く敵の間合いに入る必要がありますからね」
「でも、間合いに入るときは壱ノ型で敵の剣を流しちゃえばいいじゃないですか」
「……だから、それが出来れば苦労しないって話なんですが…………ルーカス様には簡単に感じたんですな?」
「まあ、ウォーミングアップで散々先生の剣を受けていたので……あとは合わせるタイミングだけ掴めば」
壱ノ型と弐ノ型の組み合わせは凶悪だ。正直、これだけで敵を封殺できる。
ただ問題は敵との距離が近すぎる事だろうか。これでは一手ミスしただけで
剣をじっくり観察した先生を相手になら成功できるだろうけど、初見の敵を相手に成功させる自信はない。ついでに言うなら、手を抜いてくれている先生に対してならば、という前置きも付く。先生が成功率の低い技であると説明する訳にも納得だ。
「先生が初見の敵を相手に弐ノ型を成功させる確率はどの程度なのでしょうか?」
「2割といったところですなぁ。取れればラッキー、ダメなら次の一手に繋げます」
「次の一手、ですか」
「ええ、対処は人によりますがね。私の場合は流派そのものを切り替えます」
そう言って先生は力強く大地を蹴り、これまでとは全く違う剣技を見せる。
中段の横断ち。単純な一閃ながら、その速度は目で追うのがやっと。
「敵との距離を詰めた時こそ、剣技は柔から剛へ。王国式
「俺にはその技を使わないでくださいね……」
「ハッハッハ!」
笑いごっちゃない。こんなものを食らったら木刀でも死にかねない。
ちらりと俺たちを見物する母様とレイラを見れば、二人でポカーンと似た呆け面を晒していた。
たぶんボーっと見ていただけの二人の目には、ブライド先生が瞬間移動したように映っていたに違いない。
「まぁ、真面目な話をしますと、さっき言ったようにこれは『私ならそうする』というだけの事です。まだ身体の小さいルーカス様が私と同じことをしても、受けきられて自滅するのが落ちでしょうな。叩き切りたい同年代の子供がいるなら試してみるのはありです」
「無しですよ!」
「ハッハッハ! 冗談ですとも! やってはいけませんよ?」
先生の笑えない冗談にツッコミを入れて、俺たちは休憩に入るのであった。
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