第7話
「違う! それではカウンターを合わせられる! 剣をただ受け流すだけでは足りません! 相手の型を崩すのです!」
「せぁぁああああ!!」
「……⁉ 今のは良かったですぞ! しかし、まだ足りません! 怖がらずもっと踏み込んで!」
俺の《流閃》に、先生も《流閃》を合わせてくる。結果として、俺たちはひたすらにカウンターの応酬をすることになっていた。
手を抜かれているのが剣越しに伝わってくる。
「クッソ当たんねぇ!」
「焦らない! 柔剣術に感情は不要です!」
思わず唸るが意味などない。
運動量に反し今日の俺たちの稽古はとても静かだ。鍔迫り合いになることもなく、互いに剣を刃先で滑り合わせるだけ。
煩いのは俺と先生の口ばかり……。
「ルーカスにぃ様すご~い!」
パチパチと手を叩きながら俺の姿を見て喜ぶレイラ。その姿を目の端に捉えて、俺は思わずニヤけてしまう。
話していた通り、今日は母様とレイラが見物していた。
――カンッ!
「あぁ⁉」
レイラに気を取られている隙に俺の剣は先生に弾き飛ばされ、宙を舞った。
「やれやれ、私との手合わせ中に余所見とは……」
「しっ、失礼しました!」
俺は慌てて先生に頭を下げる。けれど、先生は何やらホッとした顔をしている。
「危ないので、次からは気をつけてください。……しかし、こちらのカウンターのタイミングの方が先にズレてしまわないか心配になるほどの太刀筋でしたよ」
「その割に軽々と流しきられてしまいましたが……」
「ハハハッ! 軽々と流してこその柔剣術ですからな。さて、ウォーミングアップはここまでとしましょう」
程よく体が温まっている。
俺は木刀を拾い上げると軽く何度か振って感触を確かめる。
ビュンッと風を切り裂く音がすると、またしてもレイラはキャーキャー言って喜ぶ。調子に乗って剣を振り回すも、俺は師匠に再び窘められた。
「ルーカス様? 遊びで剣を振ってはなりませんよ」
「すみません……」
「……そういう所は年相応ですな。ある意味では安心しました。それにしても、やはり末恐ろしい才能です。これでも私は冒険者の界隈でなら屈指の柔剣術使いと自負していたのですが……まさか初心者である少年の剣気に気圧される日が来ようとは」
俺に話しかけているというよりもしみじみと独り言ているブライド先生は目を細めて彼方に視線を送っている。
「もしかすると、私がルーカス様の稽古相手になれる時間はそれほど長くないのかもしれませんな……」
「アハハ……買いかぶり過ぎですよ。柔剣術の型が幾つあるのか分かりませんが、僕はまだ壱の型を覚えたばかりなんですから」
「王国式柔剣術の型は全てで5つです」
「えっ⁉ それだけですか?」
「ええ、型自体は少ないのですよ。まあ、それら全てを使えるようになる剣士は数えるほどなのですが……。この私も、実は4つの型しか実践レベルでは使えていないのです」
でも壱の型を覚えるのに少なくとも2年って昨日言ってたから、単純計算で最低10年とかは掛かる事になるのか……?
それにしたって先生でも4つ……。どうなってるんだ? 王国式柔剣術ってやつは。
「さて、雑談はこの辺りにして本日の修練を始めましょう。今日は弐の型をお見せします。習得難度は《流閃》の倍以上。一般には、この剣を覚えるのに5年近くの歳月が必要と言われています。……ルーカス様は何日で習得できるでしょうな?」
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