第3話
「父様! 俺に剣術の家庭教師を付けていただくことは可能でしょうか!」
翌日の朝、俺は足早にリビングへ向かうと既に席に着いていた父様におねだりをする。
朝っぱらか我儘を言えば、いつもの父様なら困り顔で「ルーカス君、そういう話はあとでね」とか言って誤魔化されるのが落ちなのだけど、今日に限っては喜色満面で大きく頷いてくれた。
「おおぉ! ルーカス君! 遂に剣士になる道を選ぶことにしたんだね! そういうことなら、もちろん良いとも!」
「いえ! 父様! 俺は剣士になる気は毛頭ありません! 剣士になるなら父様を真似て槍術師になった方がマシです!」
「ん……?」
父様は口の形だけが笑みのまま、目を点にする。相変わらず表情豊かな人だ。
「とりあえず、寄宿舎学校に入るまでの間は剣の修行をして、魔法の勉強は学校に入ってからにしようと思います!」
「ええぇ⁇ 剣士になるんじゃないのかい?」
「なりませぬ! 俺は魔法使いになります!」
父様の口角は限界まで吊り上がりヒクヒクと痙攣している。
何か言いたげだけど、何を言えばいいのか分からないといったところか……。
そんな顔をされても魔法使いへの渇望を捨てることはできない。
「俺は考えたのです。父様たちが言うように、俺に本当に剣の才能があるのならば、今から学校に入るまでの猶予2年間でそれなりの技量を身に着けられるはず。これから俺は2年間、真面目に剣術を学び剣士としての腕を磨きます! そして! 将来は魔法使い兼サブ職業剣士としてやっていこうと思うのです!」
「サブ……」
俺の完璧なプランを聞いて父様は頭を抱えている。
なんだろう、そこはかとなく困惑している気配がする。
「あれ? ダメですか?」
「ん~~~……、まぁ、今からサブ職業のことまで考えられているのは良い事なんだけどね……うん……。なんでそこに頭が回るのに、魔法使いという選択が残るかな……」
「愛故に!」
眉間を親指と人差し指でギュッと摘まみ上げると、父様は頭が痛そうな顔をする。
そうしてウンウンと暫く唸ると、どうにか俺の言葉を飲み込んだようで「まぁ、剣を振っている内に楽しくなってくるかもしれないしね……」なんて呟いてから俺のおねだりを承諾するのだった。
「わかったよルーカス君。僕の伝手で呼べる剣士を探してみるから、少し待っててね」
「ありがとうございます! 父様!」
そんなこんなで、俺はとりあえず剣術を学ぶことになるのであった。
◆
そして、数日後。
「初めまして、ルーカス様。私は元冒険者をしておりました、ブライドと申します! 今は冒険者を引退して、冒険者ギルドで新米の訓練官をしている者です」
父様が連れて来た男は、腰にサーベルを下げた屈強そうな立ち姿で、正に剣士然とした佇まいだった。
冒険者というのはもっと荒くれのイメージがあったのだけど、ブライド先生はどこか気品があって冒険者というよりも騎士と言われた方が納得できる。もしかすると、俺の偏見が強いだけかもしれないけれど。
「初めましてブライド先生! これから2年間よろしくお願いします!」
「聞いていた通り、意志の強そうな顔をしていらっしゃる! ルーカス様はきっといい剣士になれますよ!」
全く以て剣士になる気はないのだけど、とりあえず今はニコリと笑っておく。
ブライド先生は俺の態度を大層気に行ってくれたようでホクホク顔でその日から剣を教えてくれるのだった。
そんなブライド先生の顔が驚きに染まるのは、彼と挨拶を交わしたすぐ後の事である――。
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