第2話
その日の夕食の席で、俺は父様に我儘を言う。
「父様! グリモルさんを説得してなんとか俺に魔法を教えるように言ってくれませんか! 俺はどうしても魔法を使えるようになりたいんです!」
「う~ん……僕もあまり魔法使いはおすすめしないんだけど……」
「どうしてそんな酷いことを⁉ 少し前までは父様も『ルーカスは立派な魔法使いになれるよ』と言ってくださっていたのに!」
「まあ、そうなんだけどね……」
俺の家系、アラディア家は代々魔法の適性が比較的高い傾向にある。だからこそ、父様――名をローグという――も俺に魔法使いになる才があると思っていたに違いない。まあ、魔法使い以上に槍術と弓術の才に秀でていることから、アラディア家の人間が魔法使いの道を選ぶことは珍しいそうだが……。
「ルーカス君には困ったわね……あんな結果を見たら、普通は喜んで剣の道を進むはずなんだけど……」
母様――名をミーアという――も俺が魔法使いを目指すことには否定的だ。
「剣が嫌いなわけではないのです! それ以上に魔法が好きなのです! 妥協して剣の道に進んでも、きっと俺が大成することはない! 父様が言っていたことじゃないですか。『愛こそがその道を極める最大の力』俺はこの言葉を信じています!」
「ん~~、わかった。大きくなったルーカス君には、さらに先の真実も教えてあげよう……。愛が才能に屈することもあるんだよ?」
「ファッ⁉」
笑顔で身も蓋もない事を言う父様に俺は素っ頓狂な声を上げる。
そんな夢も希望もないセリフを聞かされるとは思わなんだ……。
「パパ、ルーカスにぃ様を虐めちゃやだよ……」
うつむく俺の頭をよしよしと撫でる小さな手。妹のレイラだ。まだ4歳の妹は家族全員にとって、目に入れても痛くない存在。まさに天使。
俺はレイラの優しさにむせび泣き、父様は言い返すこともできず苦悶の声を上げる。
「レイラちゃんは良い子ですねぇ。大丈夫よ、二人は喧嘩してないですからねぇ」
「ほんとぉ?」
席を立ってレイラを持ち上げた母様は、レイラを元の席に座らせる。
抱っこされてキャッキャするレイラがこれまた可愛くて、俺と父様は鼻の下を床に付きそうなほど伸ばした。
「ルーカス君、この話はあとにしようか……。今はみんなで楽しい食事をしよう」
「はい」
そうして、どさくさに紛れて話を流されてしまうのであった。
◆
なんだかんだ言いつつ、俺は家族やグリモルさんの言いたいことだって理解している。俺にはまだ実感がないけれど、才能値『∞』というのは大変なことなのだろう。
言っても嘘つき扱いされるから、自分から剣士の才能値を言いふらすことは止めるように何度も言い聞かされた。剣に興味がない俺は言われるまでもなく人に自慢する気はなかったが……。
今のところ俺の才能値を知っているのは、鑑定の儀式を執り行ったグリモルさんと、その場に立ち会った家族だけ。数値が出た瞬間、グリモルさんは発狂し、父様はひっくり返り、母様はその場にへたりこんだ。
異様な空気に包まれる室内で、俺だけが魔法の才能値『1』という現実に絶望した。
「特別じゃなくたって……魔法使いになれればそれで満足だったんだけどな……」
俺はアラディア家の長男だ。将来は当主の立場を継ぐことになる。分かっているのだ、俺に求められているのは最も適性のある剣士の才能を伸ばし、将来家のためにその力を役立てること……。
そして俺は決意する。
「仕方ない……剣を学ぼう…………
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