るーと2
日笠しょう
るーと2
「一辺が一センチの正方形を考えてみて」
「突然、何?」
「いいからいいから」
一片の二乗と、もう一片の二乗を足して√をかけるから……
「√2センチ?」
「正解」
「こんなの、いまどき小学生でも分かるよ」
「じゃあ君は小学生より賢い。それが証明された」
「くだらない」
言いながら、問題に向き直る。今回の範囲は二次関数の問題だから、あまり自信がない。変域に至ってはもう、ちんぷんかんぷんだ。
「証明って簡単だよねー。わたし、次のテストいい感じかも」
「それはよかった」
「ねえ?」
君の声色が変わる。
「何さ」
「√2って」
「まだその話?」
「いいから聞いてよ。√2って、割り切れないんだよ」
「だから√つけているんでしょ」
「そ。いつまでも無限に続く、限りのない数字なの。逆に言えば、決まった形がない数字」
「それで?」
「でね、さっきの話に戻るんだけれど、正方形の対角線の長さは√2でしょ。ということは、正方形の対角線も終わりが無いってことになると思わない?」
「それはおかしいよ。正方形の対角線には終わりがあるじゃないか。だって、正方形には角と角があるんだよ? 対角線はそこを伝う線なんだから。始めと終わりがちゃんとある線だ。」
「だから不思議なのよ」
「不思議?」
「対角線にはちゃんとした形があるはずなのに、その長さは不定で限りなくて、終わりも無くて、永遠に長い。でも、確実に終わりはあるの」
「何が、言いたいの?」
「明確な形が無くても、そこにあるっていう事実は変わらないのよ」
君がえへん、と胸を張る。
「私たちがカップルっていう事実は、変わらないのよ」
「僕たちはルートでくくられちゃっているのか」
苦笑する。それに合わせて、君も朗らかに笑う。
「さて、勉強の続きをしますか」
「その前に―――」
その時何が起こったのかは、ここでは言わないでおこうと思う。日が射して、風が吹いて、カーテンが揺れて、君の甘い香りがいつもよりも近くに感じられて……。
ふぅ、と小さく一息。
「やっぱりちゃんとした形も欲しいじゃない?」
るーと2 日笠しょう @higasa_akira
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