第29話 上手く行かないモノローグ

 ─レオンハルト視点─



「お、おい、ちょっと落ち着けって!」

「落ち着いて要られるかよ…!アルバニア伯爵領の街や村の殆どが焼かれたんだぞ!!」

「今お前が向かったって焼け野原が残ってるだけだ、できる事なんて無いだろ?」

「っ…!クソッ…なんでこんな…!」


 俺はアスリスタ学園の男子寮で、ガレリオを抑え込んでいた。

 今はちょうど、物語の本編が始まった所だろう。


 入学式を目前に起こった、アルバニア伯爵領の襲撃事件はハレイフィルド王国中を震撼させた。

 なにせ、英雄貴族と英雄騎士が受け持つ領地だ。

 今回の事件は人為的に魔物を“生み出し”、また魔物達を街中に誘引した事によって起こされた。


 …確か、この事件でガレリオの腹違いの子供が黒竜にされるんだったかな…。

 多分、今回もそれが起こったんだろうな、正直「気の毒だったな」としか言えねぇ…。


「まずは落ち着けって、まだ家族からの連絡も来てないんだろ?」

「だけどなぁ…!」

「入学式は期日通りにやるんだ、それが終わるまでは、大人しく連絡待とうぜ、な?」


 どかっと椅子に腰を落として、机に肘をつき頭を抱えてしまったガレリオを見て、俺は机に号外を置いてから少し頭の中でストーリーを整理する。


 アルバニア伯爵領襲撃事件というモノローグが終わり、本編開始のイベントは入学式。


 ここではまだ主人公に動きはない。

 新入生の代表あいさつとか国王陛下の話をぼーっと聞いて、A級のクラスに移動する…。


 そこで実家が焼かれた事で気が立っているガレリオと絡むんだったな。

 ガレリオに名前を聞かれることで名前を入力するんだけど…。

 デフォルトの名前は確か、「ブレイズ」だったはずだ。


 ブレイズは神格者であり「あらゆる魔導具を使いこなす事ができる」魔力を持っている。


 この世界の魔導具には、ゲームシステム的に適合率というのがあり、プレイアブルキャラクター全てに魔導具への適合率が定められている。

 ゲーム内にある魔導具は合計で百種類以上あるが、主人公であるブレイズはその全ての魔導具への適合率が100%であり、設定上は「自身の魔力をあらゆる魔導具に宿る魔力に同調させることができる」らしい。


 つまりブレイズの能力は「魔力の変質」である。

 なので勿論、他の神格者と違って魔法も使う事ができる。

 魔力量もクラヴィディアほどでは無いにせよ規格外なので、魔法もかなり自在に使いこなせる。


 ……まあ、どんなに強力な魔導具を使いこなせようと、クラヴィディアには一回も勝てずに終わるんだけど。

 クラヴィディアはラスボスの上位互換だからな…。マジで公式チートキャラすぎる。

 それ故に制限もかなり多いんだけど……。


 それはともかく、ゲーム内最強武器であり、かつこのゲームの中でも特に重要な役目を担っている魔導具の「白竜の牙」はほぼ全キャラが適合率50%以下にも関わらず、プレイアブルキャラクターの中では主人公だけが唯一100%使いこなせるという、その武器が、今この部屋にはある。


 …知っていたけど、いざ見ると凄かったな…。めっちゃ綺麗な剣だったわ。


 ……効果を上手く扱えないってだけで、そもそもの剣としての性能も作中内じゃダントツなんだよな…。


 そりゃ、レオンハルトは親友のガレリオにこっそり嫉妬してたりする訳だ。

 レオンハルトだって、別に才能がない訳じゃない。五大貴族、エイジ公爵の令息、という立場と、シンプルに天才で「白竜の牙」の所有者であるガレリオや平民ながら「神格者」であるブレイズ達同級生の、間に挟まれては、そりゃキツイ…。


 気が立っているガレリオとブレイズは、若干喧嘩気味になるが、そこにヒロインの一人であるクレア・フォン・ディズゼリアと言う銀髪碧眼巨乳美少女とかいう、まさにメインヒロインなビジュアルの少女が間に入る。


 ガレリオは立ち去り、ブレイズとクレアの交流が始まる訳だが……。


 ……クレアは現在、俺の婚約者だ。ディズゼリア子爵家の次女なんだけど、。


 いやまあ、最終的にはレオンハルトが魔物化して襲いかかるから、ストーリー的には他がひどすぎて、そこまで胸糞悪い感じはしないのだが。


 原作では元々婚約者という割には仲が良く無かった上に、レオンハルトは素行不良、クレアはブレイズに心惹かれると来たもんだ。


 一方で現在は、と言うと…レオンハルトとクレアの仲は、あまり変わってないが、素行不良が無くなっているのでマイナスイメージは多少減っている筈。

 ブレイズとクレアが仲良くなる場合は、大人しく身を引くのもアリだと思ってる。


 いくらクレアが可愛かろうと、生憎とあの子は俺の推しじゃないからな。


 いっそ、ストーリーガン無視で推しと仲良くなるってのはアリよりのアリだよな。


 ……って、ガチ悩みしてるガレリオの横で考えるのもなんか気不味いな。


 そりゃそうか、自分の家族が死んでるかも知れないって考えたら普通は気が気じゃないよな。


「…王都も、随分と暗い雰囲気だ」

「当たり前だ、竜の再来だぞ!父上の騎士団は練度なら近衛騎士にだって負けない!それなのに、あの街が壊滅するなんて…」

「だから落ち着けってガレリオ、一々ヒートアップするなよな…」


 独り言を呟いただけでこの有り様とは、本当にキツそうだ。


「英雄の一族なんだろ?そう簡単にやられるのか?」


 発破をかけるつもりでそう言うと、ガレリオは顔を上げること無く呟いた。


「…引き篭もりとメイドに何が出来るってんだよ…」


 引き篭もりがゼルハートなのは分かる……が…。

 ………ガレリオの兄弟に、メイドなんて居たか…?


 原作に出てないキャラクターだろうか。


 グレイブニル騎士爵家の家族構成は、紹介されていた範囲内では…。

 当主の騎士長アルセーヌ。

 その嫁で元近衛魔導士のレノア。

 二人の長男であるガレリオ。

 三歳年下の双子、ゼルハートとクラヴィディア。

 この五人だった筈だ。あとは黒竜になる、ガレリオの腹違いの妹……。


 だが、ガレリオはまるでもう一人兄弟がいるかのような言い方をした。それに“メイド”というセリフからして、妾の子、それも娘なのだろうか。となると、黒竜の姉……とかか?


 ………マジで分かんねぇ、誰だ…?

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