第20話 魔力と記憶

 薬屋によって変なものを飲まされたせいで具合が悪くなったあと、昼食と口直しのために露店をいくつか回ってから冒険者ギルドに向かった。


 その際、俺はハルフィにとある魔法具の仮面を渡して自分も装着した。

 仮面の見た目は前世に小さい頃に、夏祭りなんかで見かけたような気がする狐のお面である。内側には幾重にも重なった魔法陣が施されているが。


「えっと、これ…何?っ…わぁっ…!?ゼル!?」


 ここは人目に付かない路地裏。ハルフィは仮面を付けた俺を見てびっくりしていた。

 その様子を見て、俺は小さく頷いた。


「…よし、ちゃんと外見は変わってるな…。視覚も良好」


 今の俺は、茶目黒髪で15歳前後くらいに成長した姿になっていた。………つまりは、前世と全く同じ姿…というわけだ。実際は14歳なのだが、この世界には人間よりも、体が小さい人系の種族が結構いるので15歳くらいなら言い張れる。

 仮面はしっかりとつけたままなので、若干不審者ではあるが…冒険者なんてこんなもんだろう、顔が割れるのを嫌う人も居るだろうから。


「……この仮面の影響?」

「そう、冒険者ギルドって15歳以上じゃないと、冒険者登録ができないんだよ。今回はそういうつもりは無いけど…まあ、印象の問題だよ」


 あとは実験的なものだ。


「だから、外見だけ変えておこうと思って…。ハルフィも付けて」

「…どんな見た目になるの?」

「俺の場合、髪とか目の色が特徴的過ぎるから色を変えてるだけで…。ハルフィのは普通に大人っぽくなるだけだよ」


 実際は、少し幼くしたアノレア…のような外見になる。


 見た目だけ変える上で、いくつか考えないと行けない事があったが…結局どうするのが最適かを考えた結果、肉体そのものの外見だけを成長させるのが色々な不都合をすり抜けられた。


 一応、自分に当たる光を捏ねくり回して外見を変える方法もあったのだが、それだと使う付与魔法陣の数が多すぎて発動効率の都合が悪かったのに加えて、激しい動きをすると効果が付いてこれなかったり、目線の高さに違和感が発生したり。


 一方で肉体を成長させるにしても、まずどうやるの?という大きな問題が発生した。時間を加速させるとかできたら楽だったんだけどね。


 これは今はまだ調べている段階なので、曖昧な憶測に過ぎないが…「魔力には記憶が宿る」のではないかと考えている。

 俺が転生した際、脳みそが違うのに同じ記憶があるのはどう頑張っても現実的で論理的な説明はできないと思っていた。


 魔力には意志に感応する性質がある以上は、記憶との関連性も切るに切れない。

 魔力や魔法としての概念で考えると、人の意志や記憶は脳ではなくて魂からの呼応らしいので、魂に宿っている記憶を魔力が感じ取り、転生した体に魔力を通じて記憶が宿ったのではないかと考えたのだ。

 そこで、脳以外に記憶やそれに準ずる物が宿っているのでは無いかという線を考えたわけだ。


 実際、この仮面には「記憶を呼び覚まして同じ外見に変化させる」という効果が付いている。


 もし、魔力そのものが記憶や意志と関連しているのであれば、実現するのは決して難しくはない…という憶測だったのだが…。

 そして、これが見事に成功した。つまり、俺の憶測はほぼ当たっているはずだ。


 これらの推測を決定的にしてくれたのは、前世の自分との、夢の中での会話だった。


 ハルフィの記憶から呼び覚まされるのは「自分が生まれたばかりのときのアノレア」の外見である。


 今のアノレアよりは大分、幼い印象になるはずだ。

 前世の俺もアノレアも冒険者との関わりはないし、ついでに言うと仮面つけいてるから顔は分からない。冒険者ギルドに冒険者として登録して貰うにはとくに不都合はない。


「…お母さんみたいになった…」


 そっくりではあるかも知れないが、アノレアさんはいつも髪を降ろしているが、今のハルフィはポニーテールに結んである。

 髪型は違うし顔は隠れてるから大丈夫だろう。

 あと、何故かアノレアさんよりも大きい果実がたわわに実っているから、最悪アルセーヌの会ってもバレなそうだ。

 将来もしかしたら、大きくなるかも知れないな。俺には関係のないことだが…。それにしても、ハルフィの記憶に居るアノレアは何故巨乳なんだ?


 ま、まあ…記憶ってわりと曖昧だったりするし、そんなもんなのかな……?

 ともかくそんな訳で、俺とハルフィは冒険者ギルドへ入った。




 色々と準備はしたが、中で大した事はしてなくて……冒険者達がギルドへ売却している中で特に良質な魔石を通常より高額ではあるが買い取ったり、冒険者という存在について色々と話を聞いた程度だ。




 ここよりも大きい街に行くと城塞都市のような作りになることが多いらしいが、それは過去に人間同士の戦争が有った時の名残らしい。


 現在のこの世界には昔よりも多くの魔物が生息しているし、空を飛ぶ魔物だって決して少なくない。

 なにより、この国では白竜の伝説があったりするし…。


 ここハレイフィルド王国は過去に、白竜一体に崩壊寸前になるまで破壊の限りを尽くされた。


 その白竜を一度撃退したのがアルバニア伯爵家と、その騎士だったクロアス。

 アルバニア伯爵家は国の復興に、騎士クロアスは白竜の討伐にそれぞれ注力して、共に一国の英雄となった。


 それに際してアルバニア伯爵家も騎士クロアスも少なからずの報酬を与えられたのだが…彼らは権力や立場といった物だけは絶対に受け取らなかったそうな。


 今でこそ子どもたちに英雄の強さや騎士の誇り、貴族の何たるかを教えるためのおとぎ話みたいな物だが、少し物語調に脚色されてるだけで、その殆どが史実らしい。

 それでいて、グレイブニル騎士爵家には「白竜の牙」が代々引き継がれている。


 さて、この「白竜の牙」なのだが、俺はこれについてしばらく調査を続けていた。

 今はガレリオと共に王都へ行ってしまったし、そのガレリオは15歳になったら王都の学園へ入学してしまう。それまでの2年間は王族直属の騎士団である近衛騎士のもとで修練に励むそうだ。


 なのでしばらくの間、俺の手元から「白竜の牙」は離れたままになる。

 ガレリオ的にはもう「コレは俺の剣だ」とでも思っているのだろう。


 俺はそれで一向に構わないのだが、残念ながら彼にはあの剣の力を最大限に引き出せない。


 具体的な理由はまだ分からないが、あの剣に宿る魔力はどうも、波長の合う魔力を流し込まないと力を解放してくれないのだ。実際、今まで引き継がれて来たあの剣は、これまで誰も完全には扱いきれなかったらしい。

 もしかすると、白竜と敵対しているクロアスの家系の人間では駄目なのだろうか。

 もう少し俺の手元にあったら、どんな魔力の人なら波長が合うのかも調べることも出来たんだけど…今はまあ、仕方ない。

 実際にどうかなるは、実行してないから分からないが、俺に使えそうな物でも無さそうだったし。




 ……ただ、手元に「白竜の牙」が無かったから、しっかりと調べるまでは気付かなかったんだよな…。


 俺は机の上に置かれた球体の魔導具から手を離してため息を吐き、天井を仰いだ。


「…この石、あの剣と同じ魔力だ…」


 仮定の話でしかない。

 だが、確信している。実在したのだと言うなら、これは間違いない。


「……これ、白竜の魔石だ……」


 ………しかも、魔導具化してる…。そもそも魔石って魔導具化することあるんだな…。魔力宿ってるから当然なのかも知れないけど…。

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