第19話 薬屋
翌日、ハルフィと二人で街に出た。
その際、俺はいくつもの魔法具を持っていた。
仮面型の魔法具を隠し持っていたり、腕輪型の魔法具を装着したり。
それ以外にも、腰に下げた剣や両耳についてる飾りも、それぞれ索敵や、俺には魔力が足りなくて使えない〈魔法障壁〉なんかを再現することができる有用な魔法具達だ。
ただのデートでこんな物騒なアイテムの数々を持ち歩く必要はない。
当然、デートではないから持っているのだ。
ウキウキで完全に浮かれているハルフィの事は置いておき、俺はいくつかの店を回った。
主に魔法や魔法具に関連するところ、あとは冒険者ギルドにも寄る必要がある。
因みに資金はアノレアを通じて購入したいくつかの金属鉱石を加工して作った魔法具を売却して、定期的に貯蓄していた。
初期費用を懐から出してくれたアノレアには二倍にして返したので大丈夫。
本人からは「親が子のためにお金を使うのは当然ですから、これは受け取れません!」となんとか色々言われたが、借りたものは返す。アノレアとの直接的な血縁はないが「親だ」と断言してくれたのはなんでか分からないけど、ちょっと嬉しかった。まあ、それとこれとは別だけど。
武具を作るための金属系統があれば、あとは加工も付与魔法陣も自分で出来る。
練習として世間一般に使われている物を少し改良した程度の物は売却して、自分で使う為の物は試行錯誤しまくって色々作ってる。
アノレアには仲介料取ってもいいよ?と伝えてはいるのだが…それは彼女の手元ではなくハルフィの方に入っているらしい。まあ、それも良いんじゃないかな。
そんな事を考えながら、ふらっと立ち寄ったのは薬屋。
最近まで知らなかったのだが、この世にはポーションと呼ばれる物があるらしい。
魔力が宿った植物を抽出、調合…場合によっては魔物の素材すらも使って魔法と同等以上の効果をもたらす薬や毒のことだ。
これについても実は気になっていて、自分なりに色々調べていたのだが…如何せん外に出ない俺には素材収集が難しかった。
なので出来るのはせいぜい資料を集めることくらいであった。
ハルフィは結構、興味津々で薬の瓶が並ぶ棚を見ていた。
俺はとりあえず、資料で見た物の実物と、それを作るための材料が買いたいんだけど…。
「おやおや、子供二人とは…また珍し……。あぁ、アンタゼルハート様かい…」
おっと、どうやら店主のお婆さんは俺のことを知っている様だ。
家族が揃って復興を主導…ガレリオは王都行きだけど、そんな時にも関係なく、自分のためにぼんやりと街中を
まあ、それは良い。俺は欲しい物を集めて店主の元へ運んで行った。
「これまた随分と持ってきたねぇ…。金はあるんだろうが、どうやって持ってく気だい?」
ここに来るまでも色々と買い物はしてきた。
それまでの荷物をどうやって持っているのかと言うと…。
これまたアノレアに頼んで、探して貰っていた魔導具があった。
俺はお婆さんに腰に下げていた皮袋を取り出して見せる。
「…ふーむ…?魔導具か…。これまた珍しい、騎士爵家ってのは随分と金持ちなもんだ」
全部自分で稼いだわ。
まあ魔法具の相場とか、どこで売ればとか分かんないから、アノレアに色々任せて、将来のための情報を集めてたけども。
その時に、俺はアノレアに「物を入れられる魔法具か魔導具を探して欲しい」って頼んだら「入れたものが二度と取り出せなくなった、使い方が分からない皮袋」が普通に見つかった。
大枚をはたいて買ったそれを、色々と試行錯誤して中身を取り出した。皮袋の中には大量の金貨と…馬鹿みたいなサイズの魔物の死体が新鮮な状態で保存してあった。
恐らくは魔物との死闘末に相打ちになった冒険者の持ち物だったのだろうと思う。
命を落とした冒険者が持っていた皮袋が、この皮袋に入っていた魔物の魔力に長い間晒され続けたせいで魔導具化したのだと思う。
因みに中にはいっていた魔物について調べたところ面白い生態を持っていた。
名前を“バルーンフロッグ”とか言う、デカいカエルだ。
食べたものの分だけ胃袋が膨らんでいつでも栄養補給ができるのだとか。また食った魔物の骨や硬い部分をもう一つの胃袋に移動させて、戦闘の時に物凄い勢いで吐き出すことで攻撃するんだとか。
こんな魔物のことだから、沢山魔石を取り込んでいたんだろう、近くにあった袋が魔導具化するくらいには。そんな魔物の魔力に影響されてか、この皮袋は中が四次元ポケットみたいになっている。俺としてはとっても有り難い。
中身を取り出すのに繊細な魔力操作が必要になるのだけは面倒くさいけど。
まあ良い。
とりあえずハルフィに支払いの類いは任せて、俺はもう少し商品の確認を……。
……ん?
不意に、感じたことのない不思議な魔力が詰め込まれた、中身が見えない魔法瓶を見つけた。
明らかに異質だ。
「おや、それに目をつけるとは…飲んでみるかい?」
突然、店主のお婆さんがそう声をかけてきた。
…えっ、なにこれ試飲できんの?
と思ったのも、束の間…お婆さんは懐から小瓶を取り出して魔法瓶の蓋を開けた。中身を少し空の小瓶に移し替えて、俺に差し出してきた。
かなり異質な魔力を感じる液体だ。
俺は恐る恐る小瓶に口をつけて、乳白色の液体を口の中に流し込んだ。
「あ、あの…コレって、何なんですか?」
皮袋を持ってきたハルフィがお婆さんにそう聞くと、お婆さんはニヤリと口角を持ち上げた。
「ユニコーンの羊水だよ」
…へえ、ユニコーン…。そんな魔物も居るんだ…。
……てかなんて言った?……よう…すい…?
若干ながら苦いようなしょっぱいような、少し不快な味が口の中に広がる。
そして…凄まじい勢いで胃液が上がってきて喉を刺激した。
「おえぇ…っ…」
「うわっ!!?ゼル!」
……なんて物を飲ませやがるこのクソババアっ!!
……結局ユニコーンの羊水は購入した。この薬屋では一番高い買い物だった。
購入理由はユニコーンという魔物についてと、この魔力の正体について、資料の一つとして調べたいと思ったからだ。
断じて「お前飲んだたんだから、それ買えよ?」という圧力に負けたわけではない。
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