第16話 一応の収束
魔物騒動から一週間が経過した。
当時、屋敷には百人を優に超える民達が避難をしてきた。「神格者」であるクラヴィディアの庇護下である為、当然と言えるが。
因みに避難してきた民の中には何人もの怪我人が居たのでそれは神聖魔法が使えるハルフィとアノレアが対応した。
他、使用人達は皆が多少なりとも剣や魔法を扱える者達であるため、避難民の捜索や騎士団、衛兵達の補佐をしていた様だ。
一方で魔物の討伐に関してだが、これはアルセーヌ率いるアルバニア騎士団よりもガレリオの単騎の戦果のほうが大きいという、凄まじい戦績を残した。
百体近い魔物の群れを、ガレリオが一人でおおよそ半数近く討伐したのだと言う。
魔物の討伐に参加したのはアルバニア騎士団とガレリオ、そしてC級以上の冒険者達だ。
そんな中でガレリオは目に付いた魔物を全て屠ったのだと言うから凄いとしか言いようがない。
勿論、屋敷に近づいて来た魔物はクラヴィディアの魔法で消し炭となったのだが…。
ガレリオはほぼ全ての魔物を一刀両断して、その勇姿を目撃した領民は数知れず。
……余談ではあるが、俺の調べた限りではガレリオには「白竜の牙」の本来の力を引き出せるだけの魔力操作技術はないので、彼にとって「白竜の牙」はただの鋭くて硬い名剣でしかない。だから、今回の功績は彼自身の実力と言っていいと思う。
因みに元々魔法士として活躍していた我が母のレノアだが、彼女も彼女でこの領地の主であるアルバニア伯爵家の人々を保護していたらしい。
領主様は流石に、アルバニア騎士団と共に魔物の討伐に繰り出していた様だが、奥方や子供達はレノアの保護下にあった様だ。
……ん? 俺はなにをしたのかって?
使用人達に行動を指示しただけだけど?
まあ、その指示もクラヴィディアを介して行ったので俺がやったのは、スムーズに動ける様な作戦の立案だけ。
中庭に避難している民達を屋敷の二階からぼんやりと見下ろしていただけ。
マジで何もやってない。
因みにガレリオは今回の功績で、アルバニア伯爵家の推薦の下、一度王都で国王陛下に謁見を行う事になったそうな。
さて、この一週間に関しては、俺はただぼんやりとしていた訳じゃない。
俺は何度も街へ出かけて、ついでの街の外も軽く見回って、今回の魔物騒動の原因を探っていた。
勿論、俺だけじゃなくてアルバニア伯爵家と騎士団も必死になってその原因を探して回っていた。
だが、彼らは何も見つけられなかった様だ。
俺は……まあ、うん。原因は分かったんだよ。
俺は魔力を感じ取れる範囲こそ狭いが、繊細で僅かな魔力だろうと詳細に感じ取れるから、色々調査するのはお手の物だ。
まあ、そもそも何故俺は、魔物の討伐には参加しなかったのか。
たかが十歳の、魔法の才能もない平凡以下の人間である俺が、そんな危険な地に出向くような自殺行為なんてするわけがない。
確かに、魔法武具を作る才能はあるかも知れない。常人では感じ取ることもできない繊細な魔力操作だって可能だ。
剣術においても、同年代と比べたら圧倒的とすら言えるガレリオよりも純粋な技量は上だと断言できる。
だが、装備の揃ってない俺には継戦能力が無い。
そもそも半分も魔力が残ってない状態で、戦闘が始まっていたのだから、大人しく退散して当然だ。
そうじゃなくても、俺よりも有効に動ける人間が沢山居る中で、わざわざ俺が危険冒す理由はない。
俺は、ガレリオの様な「天才」でも、ましてやクラヴィディアの様な「神格者」でも無い。
身の丈にあった行動をした、ただそれだけだ。
まあ、過ぎたことだ。それによって犠牲者の数が上下した可能性もほとんどないのだから、気にするだけ時間の無駄。
とりあえず、原因の前に魔物という存在について調べる事にした。
この世界に置ける魔物という存在の定義は「体内に魔石がある」という一点のみ。
魔石、というと俺の中で真っ先に思いつくのはクラヴィディアが持つ魔法武具の魔石だ。
だが付与魔法陣と魔石の関係は、一旦置いておこう。
魔物という存在が生まれるのは、魔力がある一定の土地や場所に大量に集まるのが原因とのこと。
最も多い事例としては、人や動物、植物といった生命の灯火が消えた時とされている。
つまりは、生き物が死んだ際に遺体から放出される魔力が何かの拍子で一箇所に集まると、その周辺で生まれた動物や植物の“胎児”や“種子”の中で魔石が発生する。
魔石は純粋な魔力の塊だ。
人の小さな意思ですら魔法として発現する性質を持つのが魔力だ。
そんなエネルギーの塊が物体となって胎児の体内に発生する……。
体内に魔石を持つ胎児は、産まれるまでに親や周囲の環境が原因で目まぐるしく姿形を変えて、突然変異した状態で産まれてくる。
そんな訳で、奴らは「“魔”石を宿した生“物”」と呼ばれている
昔に起こった戦争や過去にはよく行われていたらしい狩猟祭等によって、一定の時期に同種の動物が大量に命を奪われたり、土地の開拓によって伐採作業等が行われた際には、その周辺の土地で同種の魔物が大量に発生した事例が少なくない。
それによって、魔物同士で繁殖なんかをする様になった事で、この世界にあるほとんどの大陸では魔物と動物が共存する生態系が生まれてしまっているのだとか。
小さな島国なんかではこうなっていないらしく、魔物という存在がとても珍しい土地も少なからずあるようだ。
なので、魔物の存在を「自然の怒り」だと評する魔法学者なんかも決して少なくないのだとか。
因みに戦争なんかだと、人の命が大量に失われるだけでなく、人が魔法を使った際にその土地に残る魔力の残滓が大量に集まる事で、「人間の魔力」が原因となった人型異形の魔物が産まれたりするし、同じ種類や近縁種の魔物が多数生まれる事によって、群れを作る魔物も発生した。
因みに、先日ガレリオが討伐したゴア・オーガの様に「オーガ」という群れを成す魔物の中で突然変異して、強大な魔力を身に宿した魔物も時々産まれてくるのだとか。
……因みに、魔物達の中には、魔物を喰らう事で自らをより強くする種類もいたりする。
それは決して珍しい話ではなくて、魔物は別種の魔物を襲って、その体内にある魔石を捕食する。
そうして自らの魔力、そして魔石をより強大なものにするのだ。
因みに魔物は、魔石から放たれる魔力に寄ってくる傾向があるので、魔石を使用した魔法具を作る際には、必ず魔石の魔力が外に漏れない様に工夫を施す必要がある。
クラヴィディアの杖で言うと、魔石にも直接付与魔法陣を刻んでいるので、魔石から放出される魔力が杖に施された魔法陣を魔力回路代わりに通って、魔力が循環するようになっている。
これは魔石を使用した付与魔法陣を施す際の基本中の基本となる知識だ。
……これを逆に利用すれば、魔石そのものに付与魔法陣を施して周辺の魔物を誘き寄せる魔法具を作る事も可能な訳だ。
………そう、今回の魔物騒動は…。誰かが、何かの目的の為に人為的に引き起こした物だった。
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