第15話 兄と姉
家宝である「白竜の牙」それは本来俺じゃなくてガレリオに渡される物だった。
だから、という訳では無いが…少なくとも今は俺が使うよりもガレリオが使う方が適切だろう。
剣技の実力云々ではなく、攻撃力の都合で。
同じ武器を使うのであれば、俺はガレリオに百回やって百回勝てる自信がある。
だが、それは俺とガレリオの間に、体格や魔力量など
これは人間同士の模擬戦だから起こること。
相手が魔物で、それもアルセーヌの攻撃が全く通らない様な相手に、俺の出力で攻撃したところで、たかが知れている。
それよりは、アルセーヌよりも魔力量が多くてそこそこの剣技も使えるガレリオが、この周辺にある中で最も強力な武器であろう「白竜の牙」を使ったほうが良い。
俺がガレリオに手渡したのは、それだけの理由だ。
「……オレに、使えってことか……?」
だが、ガレリオは今、伝説の剣を渡された勇者のような気分にでもなってしまった様だ。
ごめん、そんなつもりじゃなかった。
剣を取り、立ち上がり、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
水晶のように半透明な赤い刀身を少し眺めた後、震えていた唇を釣り上げて笑った。
「父上、離れて下さい。こいつはオレが斬ります!」
低い体勢で勢い良く走り出したガレリオは、剣を肩に担ぐように構えて、ゴア・オーガの懐に向かって鋭く飛び上がった。
「ハアアアァァ!!!」
濃紺色の膨大な魔力を白竜の牙に纏わせて、ガレリオは上段からゴア・オーガを一刀のもとに切断してみせた。
悲鳴をあげる事もなく事切れたゴア・オーガの背後へ一回転して着地。
振り向き、とても自信に満ち溢れた表情でガレリオは言った。
「オレはこのまま街の魔物を掃討して来ます。父上は民達の救助を進めて下さい!」
言うだけ言って、ガレリオは建物の屋根に飛び上がり、走り去ってしまった。
うーん、流石に長男。格好いいところ見せてくれるじゃんか。
ふと、アルセーヌが俺の側に寄ってきた。
「……まさか、あそこまでの実力を身に着けていたとは。ふふっ、私の子供たちはどうしてこうも、才能に溢れた者ばかりなのだろうね……?」
言いながら、俺の頭を撫でる。
そんなアルセーヌに、俺は腰に下げていた剣を渡した。
「これは……」
一応、部屋に籠もって俺が何をしていたのかは多少知っている筈だ。
アルセーヌは剣を抜いて、その刀身を見た。
「…マジックウェポンか。とても良い仕上がりだ……。ありがとうゼル、使わせてもらう」
アルセーヌの言葉に頷くと、すぐ後ろから声をかけられた。
「ゼル、やっと見つけた……。あなたは屋敷に戻りなさい」
クラヴィディアがわざわざ探しに来てくれた様だ。
……というか、なんでお前が魔物討伐に出てないんだよ。この街の最大戦力なのに。
俺の疑問が伝わったのか、クラヴィディアは肩を竦めてやれやれと首を振った。
「私が魔物を討伐する為に魔法を使ったら、建物ごと吹き飛ぶわ。手加減できるほど器用じゃないもの」
成程、そう言えば彼女は俺とは真逆なんだったか。
無尽蔵の魔力が原因か、少しだけ放出しようとしても魔力が溢れ出てしまうらしい。
いわゆる「神格者」と呼ばれる彼女は通常の人間とは違い、一般級の魔法や初級魔法を常人と同じ感覚で使おうとすると中級以上の超破壊力の魔法になってしまう。
そもそも彼女の魔力は常に放出され続けているそうだ。
例えるなら「水を出しっぱなしの蛇口」と「水が溢れ続ける水槽」のような状態にある。
因みに溢れた水は、また蛇口まで戻って流れる……みたいな感じか。
クラヴィディアは普段、その「水槽から溢れた水」にあたる部分の魔力で魔法を使っており、少しでも意識的に魔力を操ろうとすると、勝手に魔力が集まってきてしまうのだとか。
通常の人間は魔法を使うのに一の位から十の位、すごい人は百の位で魔力を操る。
それに対してクラヴィディアは、意図せずとも常時百の位の魔力操作になってしまうから、十の位に抑える作業を加えてから魔法を使っている。
本気でやれば万単位まで出力を解放できるだろう。
因みに俺は小数点第二位くらいから、最大で十の位を操っている様なイメージだ。
規模が小さ過ぎて流石に悲しいが、常人だけでなく上級以上の魔法を扱える者達でも、これだけ繊細な魔力操作ができる存在の前例はないので、クラヴィディアとはまさに真逆の才能と言える。
「ま、安心しなさいよ。私がここに居る以上は、魔物が屋敷に近付く事はないから」
確かにその通りだ。
……あぁ、と言うかそれなら。
俺はクラヴィディアをじっと見つめて、どうやって意見を伝えようか考えていた。
「ん? なによ?…………あ、それもそうね。お父様、逃げ場のない民を屋敷に避難させて下さい。安全は私が保証します」
「…クラヴィディア。あぁ、分かった……ならば、執事達を通じて衛兵へ伝えてくれ、私は騎士団に言い渡そう」
「はい、お父様」
アルセーヌは大きく頷き、街へ繰り出した。
俺はじっとクラヴィディアを見つめることしか出来なかった。どうして意図が伝わったのかが分からない。
「…なによ? 違った?」
いいや、合っている。考えていた通りのことをアルセーヌに伝えてくれた。
「あぁ、何で分かったのかって? そんなの何となくよ。ゼルが考えそうだなって思っただけで」
……こんなに弟に理解のあるお姉ちゃんだったっけな? あんまり話した事ないから知らなかったな…。
俺はクラヴィディアに同意する様に笑いかけると……彼女は少し頬を赤く染めてふいっと顔を反らした。
うーん、照れてるお姉ちゃんはなんか、ちょっと可愛い。
屋敷に戻ってから、俺はアスハという名前のクラヴィディアの世話をしているメイドに、屋敷内の人を集める様に話をした。……筆談で。
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