第3話 家と家族
この世界に転生してから三年が経過した。
年相応よりは明らかに上になるが、言語能力はしっかりと身についたと思う。
まだしっかりと人と話をするところまではいってないが、書く、読むということはある程度ながらできるようになって来た。
書くのは、そもそも書き取りの勉強ができるだけの環境が最初は無かったから、自主的に学ぶのではなくて教えてもらえるまで待つことにしたので、多少遅れはしたが。
義務教育的なものがない世界ではあるものの、ある程度身分の高い家の子供であれば教養を育てる機会は貰える。
さて、そんな訳でこの世界にもほんの少しずつ慣れてきた所だが、以前まではよく分からなかった両親についても進展があった。
グレイブニル騎士爵家が仕えているのは、この街を統治しているアルバニア伯爵家。
俺の父親であるアルセーヌ・グレイブニルはそのアルバニア伯爵の領主の側近であり、滅多なことでは家に帰って来ず、家のことは母親のレノアにほとんどを任せている。
因みにアルセーヌは白髪に青い瞳というイケメンな外見をしている。
だが生憎とレノアも方も中々に忙しい様子で、あまりこの屋敷に帰って来られてないのが現状らしいけど。
レノアは、この家に嫁ぐ前は高名な魔法使い、魔法士とやらだったそうだ。
ほんの少し顔を出してくれただけだが、クラヴィディアと似た──正確にはクラヴィディアが似ているのだが──黒い髪と黒い瞳が印象的な、とてもグラマラスな女性だった。
ほかにこの家に家族として居るのは、少し年の離れた兄、名前はガレリオ。黒髪と青目。
今は七歳で、やんちゃ盛りと言うべきかなんというか。
そこそこな頻度で部屋の中で木剣を振り回しては侍女や執事に叱られ、それでも懲りることなくイタズラして回っている。
年相応の子供らしいと言えば、その通りかも知れない。
そして、俺やクラヴィディア、ガレリオの三兄弟とは母親が別の子どもが一人
俺とクラヴィディアの一つ歳上に、腹違いの姉がいる。
名前をハルフィという。
腹違い、つまりは異母姉弟という言葉の通り、彼女はレノアが生んだのではない。
グレイブニル騎士爵家に仕えている侍女の一人と、アルセーヌの間に産まれた子供だ。決して不倫や浮気によるものではない。
これは騎士爵家という、特殊な環境故の文化らしい。
身分の高い貴族と違って騎士爵や爵位の低い貴族は重婚を認められて居ない為、何かしらの事情で跡継ぎの子がいなくなった時の為に、一人か二人ほど、跡継ぎの代わりや繋ぎになれる子供を侍女との間に用意しておくらしい。いわゆる妾というやつだ。
因みにその侍女というのも、かなり厳選、吟味されている様だ。
ハルフィの母親は元々神職者だったアノレアという侍女だ。
以前に俺がクラヴィディアに殺されかけた時に治療をしてくれた、俺にとっては恩人でもある。
ついでに、その後も色々と、ことあるごとに他の使用人以上に世話をしてくれた。
本当に、色々と。
それはともかく、跡継ぎの代わりを産む母親という立場にある以上は、必ずある程度の能力を求められる。
アノレアはそれをクリアしていると言うことだ。
そして問題のクラヴィディア。
彼女は俺の双子の姉なのだが……ガレリオなんて比較にならないレベルの問題児だ。
クラヴィディアは俺と同じ三歳という年齢でありながら、上級魔法を成功させた。
と、そんな事を聞かされても俺には良く分からなかったので、魔法についても調べる事になった。
この世界において魔法と呼ばれる物は、大きく三種類ある。
一つは戦闘や狩猟のほか、日常生活にもよく使われる“属性魔法”。
次に怪我の治療や解毒を行う“神聖魔法”。
そして、道具に魔法効果を付与する“付与魔法陣”。
中でも戦闘魔法と神聖魔法は五つの階級に分けられる。
どんな人でも日常生活で使っている「一般魔法」
魔法が使える、と言うならばこれは最低限に扱えなければならない「初級魔法」
使えるなら仕事には困らない。戦闘用の魔法における基本となる「中級魔法」
高位の騎士や冒険者達なら一、二種類は切り札的に使える人はチラホラ居る「上級魔法」
一種類でも使えるのであれば天才、二種使える者は世界中に名前が轟くであろう「天級魔法」
とまあ、そんな階級があるわけなのだが、我が双子の姉であるクラヴィディアは三歳にしてその上級魔法に相当する強力な魔法を一度や二度ではなく確実に、それも“無詠唱で”成功させられる程度に魔法への高い適性を持っている。
体内に宿る魔力の量が尋常ではないほど多いらしく、それを扱う上での技量も年齢にそぐわない天才的な資質らしい。
そんな事を興奮気味に話している使用人たちを何度か見かけた。
因みに魔法への適性というと、ガレリオも平均よりは遥かに上らしい。
ハルフィは並、良くも悪くも平均的。だが決して能力が低い部分は無いらしい。
そして俺は……魔法適性は皆無と言って差し支えない。
絶望的に魔力の総量が少なく、同じ腹の中でクラヴィディアに全部持っていかれたんじゃないかと冗談を言う執事達が居たくらいだ。
魔力が少ない。
まあ、別にいいんじゃないだろうか。
順当に時間が流れていっても、俺が騎士の家系を継ぐわけでは無いし。
末っ子の才能がないなんて話はこの家の人達にとっては、さして気にする事でもないごく普通の話題の一つだ。
俺の短所に目を向けるよりは、才能があるガレリオとクラヴィディアに英才教育を施していくんだろうと思う。
まあ、ガレリオもクラヴィディアも小さいながらにその才能を開花させてしまったが故に、現在は増長しまくって、周囲に迷惑を撒き散らしている様だが、それも今は仕方の無いことだ。歳を重ねればいずれは落ち着くだろう。
ガレリオは今の所、家の外で悪評ばかりが付き纏っている。
クラヴィディアもガレリオも、その才能故に許されている部分が大きいので、甘やかし過ぎるのも良くないとは思うが……そこは、俺の口出しできる所じゃない。
一方で、俺はクラヴィディアに才能も活気も奪われてしまった悲しき子供の様な扱いを受けている。
無能、無気力、無口、無表情という四拍子揃った、活力の無さ過ぎる人形の様な子供だと。
……割と色々やってるつもりなんだけど、如何せん人目につかないんだよな。
ハルフィは本家の子供ではないだけに、四歳という年齢でありながら侍女の見習いとしてゼルハートの──つまりは俺の──身の回りの世話をやらされ、一定の教養を身に着けるように強制され、ある程度の護身術や魔法を使いこなせる様にと努力を強制されている。
才能に準じてのびのびと成長させる方針のガレリオとクラヴィディアとは違って、求められる物が「最低限、跡継ぎの繋ぎとして動けるだけの能力」である為、ある意味で誰よりも苦労しているように思う。
元々が大人しい性格の女の子なだけに、正直な所と見ていて痛々しいのだが、如何せんそれを強制しているのが彼女の母親であるアノレアなのでなんとも言い難い。
…………まあ、アノレアともハルフィとも、それどころか姉兄とすら、会話をしたことは無いけど…。
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