第4話 サブヒロインなんて必要ない
馬車はちょっとだけコゲちゃったが、ベルの頑張りにより多分中は平気なはずだ。
なんで出てこないんだ?あ、転んでるから出口が上になって出れないのか。
「ベルはここに居て、馬車の人を引っ張ってくるよ」
よっ!ほっ!ふんっ!…うん、登れないな。多分馬車の中でも同じことが行われているんだろう。だって馬車って横向きで登れるように作られてないし、我8歳ぞ?
「ベル…は今はいいや」
クッソ汚い、財宝ランク1ダウンだな。
困ったな、どうしようか?馬車が巨大な壁となって我に立ち塞がる。
うーん、ん?周りに労働力が落ちてるじゃないか!20人くらいか?馬車を起こすくらい出来るだろ。
「おい!貴様ら立て!手加減してやったから生きているだろう!」
「うぅ、かんべんしてくれぇ」
「今度こそ焼き尽くされたいか?」
「ひぃぃ、わかったよぉ」
ヨシ!もうブレスは撃てないが馬鹿そうだし気付くまい。
「…せっ…押せ…!押せ!押せ!おせぇぇぇっっ!」
馬車をぐいぐい押して元の位置に戻すのだ。横倒しじゃなくなれば出てくるだろう。
「よぉぉしいいぞ!もう少しだ!おい!2.3人下に入ってクッションになれ!」
「ふえぇ、むりぃ」
賊どもが一生懸命押せ!した事で馬車は起き上がったが、クッション役が逃げたせいで車輪の部分が壊れてしまった。まぁ我のじゃないしいいか。
「お前ら逃げるんじゃないぞ。実は我はとある伯爵家の嫡男だがまだ私兵がおらんのだ。お前たちを高額で雇ってやるから付いて来い!」
「ホントですかい坊っちゃん!」
「うぉぉ!俺等がこのつえぇ貴族の手下に!」
「やったぁ!馬車襲って得したぜ!!」
馬鹿どもが、町まで歩かせて衛兵に渡してやろう。お前らなんぞ知るか。
「流石ですリウス様、さすリスさすリス」
「ありがとうベル、馬車の人達は大丈夫かな?」
二人で窺うが中々出てこない。あ、倒れたショックで気を失ってるのか?人間は弱いからな、しかも貴族は運動不足で非効率な体が多い。我もひょろひょろだ。
「リウス様は繊細で華奢なのです」
「ありがとうベル、馬車の人達は大丈夫かな?」
ここはスルー。
待っても出てこないので仕方なく開けることにした、少々無粋であるし我としては相手がやってきて頭を垂れるのが趣味なんだがな。
「あけますよー」
ぎぃぃぃぃ・・・バタン。
「ドアが歪んでるし中身も歪んでたよ、さあ町に行こうか」
「リウス様、中に女性が居ましたよね?ひっくり返って少々アレでしたが2人いましたよ。ちゃんと助けないとだめですよ」
「じゃあベルお願い」
「承知しました」
「私はアラニウス、ただのアラニウスです。危ない所を助けていただきありがとうございました」
大丈夫?下半身スースーしてない?後ろの人は侍女かな。
アラニウスと名乗ったのは我と同じくらいの子供、銀髪で見るからに貴族な美女の幼体だ。宝候補。後ろの侍女も金髪の美女なんだが視線が厳しい、侍女じゃなくて戦士か?
二人共頭から耳が生えていてチラチラ尻尾が見える。獣人族だな、前世の経験ではなかなかの勇猛さを誇っていた種族だ。鬱陶しい魔法を使わないので我は嫌いじゃないぞ。
強いものに従う習性があるんだが、色々あって最後の討伐隊にも混ざってた。
「ぼくはリウス、ただのリウスだよ。覚えなくていいからね」
ベルは何も言わない、向こうの侍女は少し警戒が増したような。
「え?どうしてそんな嘘を?」
なにぃ!?この娘まさかサトリを!?
「リウス様、服装がまるっきり貴族です。しかも侍女連れです」
ふむ、そうだったな。自分たちも嘘ついてんだから気遣いしろよと思うが。
ベルもさりげにメイドから侍女に上げて来るじゃないか。何かもう面倒くさくなってきたな。我魔物倒したいんだけど。
「失礼しました。実は今お忍びでして。そういう訳なのでこれで失礼します」
御者は見当たらないが馬は生きてるしなんとかするだろ。事情は聞きたくない。
「お待ちになってください!大変お恥ずかしいのですが、暫しご助力願いたく」
えぇぇ…明らかに貴族なのに姓を名乗らないし、侍女と2人で移動してるって厄介事しかないだろ。
「リウス様、我々も同じです」
「考えを読まないで。2人はどうしたいの?」
「それが、身内は討たれ行く場所も無く。どこかに身を隠せないかと」
なんだ、じゃあ簡単じゃないか。
「僕も家から逃げてこれから冒険者になるんだ、一緒に行こう。あ、これは周りの人達には言わないでね」
面倒くさい、捨てて行ったら我がベルに捨てられそうだし連れて行こう。なんとかなるだろうし、ならなくても知らん。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「お嬢様、本当によろしいのですか?冒険者など。それに何やら邪悪な気配が」
「いいから僕について来い!」
「は、はい!」
ヨシ!
「じゃあ馬車に乗って」
「あ、でも車輪が」
「いいからいいから、ベルもね」
さっさと行こう、もう飽きた。
「よし野郎ども!馬車を持ち上げて運べ!」
「えぇぇぇぇ!!無理無理無理っすよ!」
「無理というのは嘘つきの言葉なんだよ、町まで運べたら一人金貨50枚だ!」
「うぉぉぉ!貴族すげぇ!がんばります!!」
彼らは懸命に運んでくれた。町に着いた時には疲れ果てて倒れ込んでしまうほどだった。大変都合が良かった。
「20人売り払って金貨20枚になったよ、あんまりキラキラしてないからベルに預けるね」
犯罪奴隷の売却と報奨金だ。報奨金付きのネームドだったらしく、あっさりと金を受け取れた。身元不明の子供なのに貴族の服装が効いたのか?まぁなんでもいい。もっとキラキラした新品の金貨はないのか。
お供が2人増えて金貨20枚を手に入れた!あと馬。
そんな事より魔物と戦わせろ!イライラしてブレスが溜まってきたぞ。
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