第2話 自由を愛する竜だから

「ベル、ぼくはこの家を出るよ。ベルも連れて行くから準備して」

「え?駄目ですよ?」

「ベル、ぼくと一緒に来てくれないの?ぼくよりこの家が大事なの?」

「そうじゃなくてリウス様で出ていくのが駄目です」


駄目か。もちろん軽く言ってみただけだ。


「ベル、悪いけど本気なんだ。ぼくは家を出て魔物を倒しに行くよ」

「リウス様、家を出てどこに住むんですか?」

ん?そこらで寝たらいいだろう?

「ご飯はどうするんです?」

魔物を食えばいいだろ?

「服は?靴は?汚れたらどうするんです?」

服とか要らんし、たまに水浴びすればいいんじゃね?

「はぁぁぁぁぁ」

これ見よがしに長い溜息を吐きよる。何?ブレス勝負したいの?我のブレスは世界最強ぞ?

「リウス様、リウス様が家を出たら3日で死んじゃいます」

ははは、そんなわけなかろう。我は適当に食って寝て3000年は生きたぞ。

「ベル、きっと平気だよ。そんな気がする」

「一日だけ試しに生肉を食べて中庭で寝てみてはいかがでしょう」




ベルに舐められてしまったので一日だけ試してみることにした。

無視して出ていっても良かったのだが、ベルは我が転生して最初に認めた財宝だ。なるべくなら生きたまま連れて行きたい。

仕方ないので調理場に行き生肉を奪ってきた。自分で焼くと言ったがえらい怒っていたので盗んで逃げた。考えたら我、肉なんて滅多に食えてなかったわ。

しかしこれちょっと臭いな、齧ってみたがぐにぐにとして噛み切れず、臭くて気色悪くて不味かった。


とりあえず腹も膨れたので屋敷を見て回った。今は牙も爪も無いので武器が必要だ。

半日かけて手に入れたのは調理場でパクった包丁と調理場でパクった持ちやすい鍋の蓋だけ。調理場のおっさんにムカついたので通った結果だ。

ブレスで燃やしてやろうかとも思ったが我慢した。最強の竜である我は魂にちょっと邪悪な炎を溜め込むことが出来る。だがこれは最初の魔物にぶつけて経験値を稼ぐ計画なのだ。スタートダッシュというやつだ。

仕方ないので今日は屋敷の人間から逃げ回り、そのまま部屋には帰らず庭の端で寝た。


「おぶぅぅうぅベルぅおのれぇぇぇぇ!!」

我は腹を下し、体中が痛み、ベルに縋り付くことになった。




 


「ベルは諦めて家を出よう」

あいつ怖いわ、我が苦しんでいるのを見て嬉しそうにハァハァしながら世話をしていたからな。

だがとりあえず朝飯だ。飯食ったら行くぞ!


そう意気込んでいたのに、一人っきりの朝食を済ませたところで糞餓鬼サブロックが寄ってきた。

「おい、今から稽古を付けてやるから来い」

あ?なんだクソ餓鬼、ぶち殺すぞ。

「あ?なんだクソ餓鬼、ぶち殺すぞ」

「なんだとお前!おい!こいつを捕まえろ!」

いかんいかん、つい普通に言い返してしまった。だがまぁいいか、今まで我に散々嫌がらせをしてくれたからな。家を出る前にぶっとばしてやろう。


「武器を取れ!立場を教えてやる!」

クソ餓鬼が木剣を構えて騒いでいる。武器でいいならパクったナイフでいいか。

「いくぞ!」

周りの奴らが走り寄ってきて取り押さえられた。

「卑怯だぞ!勝負じゃないのか!」

「俺を殺そうとしたぞ!捕まえて父上に処刑してもらう!」

確かに殺そうとしたが我の立場ならお前の命を狙うのが正解だろ。

必死に抵抗するが今の俺では大人数人に抑えられちゃ動けない。最早これまでか。

猿轡をされてブレスも封じられた。なんて準備のいい奴らだ。狙ってたのか?

忌々しい人間どもめ、次に生まれ変わったら絶滅させてやる。

俺は手足を縛られたまま地下の牢屋に放り込まれた。




「ふごふごふんご!」(人間どもがぁ!許さぬ!我が炎で焼き尽くしてくれる!)

ぶつぶつと呪詛を吐いていたら誰かがやってきて猿轡を外した。

「リウス様、何をやっているんですか」

「ベルか、もう貴様に用は無い。失せよ」

「そうですか、折角逃がしてあげようと思ったのに残念です」

「ベルぅ!助けてぇ!何もせずに果てるのは嫌じゃぁ!」

「ふふふっ、仕方ないですね。いいですよ、特別に助けて差し上げます。このベルナデッドと逃げて二人で暮らしましょう」

「ひぇっ」

暗い牢屋で静かに笑うベルの姿にちびりそうになった。我こんな恐怖知らないんだけど。


こうして我はベルを引き連れて実家から逃走した。全て計画通りである!

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