厄災の邪竜なのに転生したら虚弱な子爵家次男だった ーショタコンメイドと一緒に冒険者になって力を取り戻す!

無職無能の素人

第1話 邪竜復活!

はるか昔、世界を生み出した巨人が倒れた跡に生まれたとされる地、呪われた大地ミーディア。

地には強大な魔物が闊歩し、空は瘴気が満ち、水は淀み、死すら安らぎを与えない。

そんな大地でも人々は生き続け、やがて幾つかの国が生まれた。

寄り添い合う人々は更に数を増やし、領域を広げ、魔物を打ち倒し、瘴気を払い、水を清めた。いつしか人こそが大地の支配者となった。


そんな大陸の中央に棲む偉大なる古代竜がいた。最も高い山を住処とし、燃え盛る炎をもって人々を震え上がらせる邪竜。

金色に輝く鱗、空を覆う翼、強大な魔力、生物の頂点に立つ竜の本能のままに、宝物を探しては奪い、全てを蹂躙した。

人々はそんな邪竜を討つべく手を取り合った。何百もの勇者を募り、何万もの兵を集めた。夥しい犠牲の末に、勇者達はついに邪竜を追い詰める。


『忌々しい人間どもが!!』

竜は街を包むほどの巨大な火炎を吹くが、人間の魔術師は千人を超える大規模魔術による結界で抵抗する。

数百の魔術師が血を吐き倒れるも結界は炎を防ぎきり、反撃の光が竜を切り裂く。

『おのれ!おのれぇ!!』

山をも砕く巨大な尾を叩きつける、硬く鋭い爪で切り裂く。しかしその全てを肉の壁により逸らされ、反撃された。やがて竜は地に落ち、最後の時を迎える。

「邪竜ガリウス!これでとどめだ!」

若い勇者の一振りは鋼より硬い鱗を切り裂き、巨木の様な首を落とした。ついに邪竜の命運は尽きた。

「やったぞ!俺が倒した!勇者アイルが討ち取ったぞ!」

『人間ごときがァァ!』

邪竜の恐るべき執念は首を落とされてなお勇者を噛み砕く、更には最後のブレスを吹き出し、不意を突かれた勇者たちを炭に変えた。最後まで勇者たちに恐怖を植え付けた邪竜は、こうして眠りについた。

集められた勇士達の9割以上を犠牲にして、人は最強の竜を打ち倒し、大地の全てを支配した。






それから20年後。











「さっさと立てよグズ」

「うぅっ、なんだ?ここは?」

「立てっつってんだよ!」

なんだこいつは?いや、知ってる。こいつは、

「サブロック?兄?我は…」

「あぁ?気安く呼ぶんじゃねぇ!!」

ドガッ!

「い、いけません!」

頭を強く打たれ再び地に伏せる、誰かに守られるのを見ながら意識が遠のいた。


 


「そうだ、我は古代より大陸を支配し人間どもを震え上がらせた真なる竜。復活したのだな」

自分の部屋で目を覚ました時には全てを思い出していた。

一度死んだくらいで我の魂が消え去る訳が無い。それにしても最後に力を振り絞りすぎた。

力を失い記憶も失っていたか。頭を殴られた弾みで記憶が戻ったんだな。

しかし忌々しい人間に生まれ変わるとは気分が悪い。人として生きたこれまでを思い返してもやはり人間は下賤であった。

「人間などに関わる気はない。滅ぼすのは後だ」

数だけ多い人間ども、群れれば強いが特段興味もない。竜が群れれば遥かに強いだろう。戦う価値を感じない。それよりまずは力を取り戻すために山か森を目指す。人の居ないところだ。


「リウス様!目覚められたのですね!痛い所はありませんか!?」

騒がしい人間の若い雌が入ってきた。人間の中では随分まともで綺麗な形のやつだ。特別に我の宝の1つとしてこれからは大事にしてやろう。

「ベル、我は無事である。静まれ」

「大変っ!リウス様が変な言葉使いに!すぐにお医者様を!」

「ベル、ぼくは大丈夫だよ。落ち着いて」

我は竜、人を欺くなぞ容易いことよ。

「リウス様!本当に大丈夫ですか?ベルは心配しました。あのクソ餓鬼には強力な腹下しを飲ませておきましたのでご安心ください」

それで我が何を安心するのだ。やはりこの雌の考えは分からん。

「ありがとう安心したよ。今日はもう休んでいいかな?」

「かしこまりました、それではベルめが添い寝させていただきます」

「うん、ありがとう」

「っ!!リウス様がそんな事を言うなんて!やはりどこかおかしいのでは!?」

面倒くさいなこいつ。やっぱり宝にするのはやめとこうかな。

「冗談だよ、おやすみベル」

「はい、おやすみなさいリウス様」


一人になった部屋で考えを整理する。

今の我はリウス・マーレ8歳、子爵家の次男だが母は娼婦。庶子というやつ。

訓練と称して木剣で我の頭を殴っていたのは兄、サブロック・マーレ。マーレ子爵家の嫡男様10歳だ。8歳の弟を打ち据えて喜ぶ実に人間らしいやつだ。

若くして我を産んだ母とは殆ど会ったことがない、だが我が正室から嫌われまくっていることを考えると好き勝手やっていそうである。

マーレ子爵には二人しか子がおらず、我は予備として必要なはずなのに扱いが悪い。まぁ我も子爵家に貢献したわけでもなく貢献する気も無いので文句はない。


それにしても我の体なんじゃこれ?超弱体化しとるではないか!うわっ…我の戦闘力、低すぎ…?やはり前世最後のブレスは無茶だったか、イライラしてついやっちゃったのだ。

さっさとここを出て、力を取り戻す為に弱い魔物共から順に狩っていこう。人間でもいいのだが人間はすぐに群れるから面倒だ、関わりたくない。

強い生物を狩り、その残滓を吸収する事で力を増す事ができる。我の魂の器は元々強大な竜の物であるし、溢れることも無く効率的に力を手にできるだろう。

メイドのベルだけ連れ出せばいいな。


さっそく明日出て行こう。我は力を取り戻し!全ての生物の上に君臨して大陸を支配するのだ!

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