第17話 春帰省

仕事も納めて実家のある茨城県つくばに帰る

午前中に名古屋から東海道新幹線ひかりに乗り込み東京駅に着いた

大した荷物は持たずに山手線に乗り継いで秋葉原で下車する

つくばエクスプレスに乗換えて1時間弱でつくば駅まで帰る

駅から15分ほど歩けば1年ぶりの実家に着く


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時計は午後1時を指していた

母さんが帰宅の日には必ず用意してくれるすき焼きまではまだ余裕があるから、秋葉原を散策することにした

なんだか元気がなくて昼飯をとっていなかった

関東の地を踏んだ安心からか腹が少し活気を取り戻したように音を立てた

丁度駅を出たところでカレーショップを発見して店に入り、すき焼きの隙間を残すようにサンドウィッチを注文した

食べ終わり店を出る

カツサンドは結構ボリュームがあってハムタマゴにするべきだったと少し後悔した

僕はいつもそうだ

2択を迷った末に外す

頭ではハムタマゴが未来のすき焼きのためにベストの選択だと理解している筈なのに、カツサンドを頼んでしまう

まるで自ら進んで後悔する道を選んでいるようだった

サラリーマンになるのか、芸人になるのか

人生よ現在地はネクタイが僕の呼吸を奪っていく


久しぶりに訪れた秋葉原の街で歩を進める

電気街を抜けて路地に入った

小さなライブハウス"GUZO"のゴシックが目に入る

黒板にはCHAIROというアイドルのライブが開催されている要項がチョークで記載されていた

なんだかチョークの薄い水色が優しく映えた

裏路地に佇む木枠の小さな黒板が可愛いらしくて見つめていた

2,000円

行ってみようかやめようか

選択をした


スポットライトが2人の茶色を照らしていた

「お茶ダンス行くよ」

キャメル色の彼女が20人ほどの観客を煽った


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・・・・


つくばエクスプレスに乗って実家に向かう

窓の外の景色よりも、2人のアイドルと20人のお茶君の一体感の光景が瞼を支配していた

はち切れるばかりの彼らの熱狂に付いていくのは難しかった少しばかりの後悔と、羨ましさで脳がぼやけていた

あの中に入って一心不乱に踊れば、2軍3軍で過ごしたままだった青春なき青春時代を塗り潰して青春を唄えるだろうか

この宇宙の森羅万象から見下ろせば一人の人間なんて幾つになっても赤子のようだ。もし青春の権利が年齢に遮られるなら勝手に赤春を萌えたぎらせたって


「ただいま」

「おかえり、春」


母さんが用意してくれた今年はトンカツを噛み締めて、後悔の帰省を納めた


シュン

2024/12/29

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