第8話
「呑み、行きましょう。今夜。」
プレゼンが終わり社に戻る途中、立山が俺と一宮を誘った。
「あぁ…。」
力なく返事をする俺に、横山がバンッと俺の背中を叩いた。
「チーフ!負けたわけじゃないんやから…しけた顔スンの止めてくださいよ。」
「そんな顔してるか?」
「してますって…なぁ?一宮。」
一宮に振るなと思いながら俺は一宮の顔を見つめると、彼は冷たく言い放った。
「いや、いつも通りの顔ですよ。」と。
それはいつも俺がしけた顔をしているのかと、少しムッとする。
「だって、チーフ、すぐに顔に出ますもん。」
そういうと、一宮はスタスタとプレゼン資料を抱えながら歩き出した。
「うはは!言われましたねぇ…。」
と、立山が横目で俺を見やりながら
「おーい!いっちゃん!待て、待て!」と言ってその頑なそうな小さな背中を追いかけて行った。
どちらの企画が採用されるのかは、明日以降の返事待ち。
だが、有に1時間半もの時間を費やしたM社のプレゼンに比べ、俺たちのプレゼンはなんと、50分で終わったのだ。
立山がプロジェクター操作をし、俺と一宮でプレゼンをする。
俺が企画のコンセプトを語り、一宮がその具体的な企画案を提示する。
少し高めの一宮の声は、お偉いさんが、居並ぶ会議室でよく響き、心なしかそのおじさま方の眼差しが微笑ましい…と思ったのは身内の欲目か?
淀みなく説明する一宮の声は心地よかった。
優秀な部下を持つと楽だぞ…と言った、部長の言葉が浮かんだ。
だが、質疑応答の時間になると、2,3質問が出たくらいで、俺たちのプレゼンは終了したのだった。
プレゼンへ行く前に廊下ですれ違った須賀の顔が再び浮かんだ。
達成感にあふれた彼が、俺たちに向かってVサインを出しやがったのだ。
いつものあの屈託のない笑みまで添えて。
「勝利宣言かよ!」
と、今になってそのVサインを呪いたくなる。
だが、俺たちのプレゼンだって完璧だったはずだ。
あんなにチーム一丸となって頑張ったんじゃないか。
特に発案者の一宮の頑張りは凄かった。
それに感化され、皆よい方向へと動き、最終的に万全に今日という日を迎えたんじゃなかったか?
なのにだ。
あまりにもあっけなさすぎる。
「左遷ってどうして左なんだろう。右遷ってないのかな?」と呟きながら、二人の背中を追った。
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