第7話

ついにやってきたプレゼンの日。


チーム筒井からは、俺と立山、そして一宮が代表で相手先の会社へ出向いている。

空高く伸びたビル群の中でも、一番突き出たビルを見上げ、二人の顔を順番に見る。


立山も、一宮も、俺の顔を見て肯いた。

もう、ここまできたら、言葉はいらない。

この日まで、俺たちが練り上げたものは絶対に負ける気がしない。


「んじゃ、いこう。」


そういいながら、俺たちは、その巨大なビルに乗り込んだ。


おしゃべりな立山は緊張からか今日は比較的無口で、

二宮は…あいつの横顔は相変わらずクールだった。


広い会議室に通され、大きなテーブルの席につく。

真向かいには、同じく三つ椅子が設置されて、そこには誰もまだ座っていない。


「…ちょい早すぎた?」と立山がコソッと俺に囁くが、


「一番乗りの方が勝った気すんだろ?」というと、傍にいた一宮が、クスッと笑った。

その笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。


しばらくすると、部屋の扉が開き、懐かしい顔が入ってきた。

心の中で「須賀ちゃん…。」と呟く。


口元を引き締め、俺と目が合うと、会釈をする相葉ちゃんは、同じ職場で働いた時とはまるで違う人のようだった。

彼もまた、2名の部下を従え、この会議室に入ってきた。



彼らが俺たちと相対する席につく。

これから別室でクライアントへプレゼンを行うのだ。

ほどなく、ここへ案内してくれた女子社員が再び現われた。


「では、M社さん、よろしくお願いいたします。」



須賀はそれを聞いて、「うっし!」と小声でカツをいれると、立ち上がり、扉の向こう側へ消えていった。


部屋の残された俺たちは、フーっと肩の力を抜く。


「須賀ちゃん…雰囲気かわったなぁ。」


ぼそりと立山が呟いた。


すると傍にいた二宮が


「そうですか?まんまじゃないすか。」というと、少し唇を尖らせた。

「いや、いや、なんかギラギラしとったで。あんな須賀ちゃん見るの…、」

「あの人は、ずっとギラギラしてんすよ。それをあの笑顔でごまかしてるだけですよ。」と、二宮が横山の言葉に覆いかぶせるように少し早口でいう。


そのあとは、シーンと静まり返る会議室で、あれやこれやと脳内で、各々がプレゼン内容をシュミレーションしている。


企画を説明し、残り時間は質疑応答になるだろう。

だが、その質疑相当が長引けば、手ごたえがある。

それほど、興味を引く企画ということが証明されるようなものだ。



時計を見る。

もうすぐ須賀たちが戻ってもよさそうなのに、すでに一時間を超えていた。


「やっぱ、早く来すぎたね。」

と、横山が苦笑する。


二宮は唇をかみしめながら、書類に目を通している。

そして、一言「負けたくねぇ。」と呟いた。




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