第6話
なんでだろう。
なんで…と思いながらベットに寝転がっても、目を瞑れば、一宮の顔しか浮かばない。
上目遣いで「…ですよね。」と、俺に確認しながら、無邪気な子供のように笑って俯いた顔。
不覚にもその顔にドキンと胸が高鳴り、書類を捲る指先さえも可愛いと思ってしまった。
二人っきりのオフィス。
他の皆がいるときよりも、なぜか素直な二宮。
コピー機に向かう小さな背中。
ワイシャツの裾を捲って、「やっぱ、あちーですね。俺も、脱ごうかな…」と呟く横顔。
なんだかんだで、俺、めっちゃ、あいつのこと見てる…と今更ながら思い、うあーと叫びたくなった。
別に俺に、そういう趣味はないんだけど、なんていうか、あいつは……いけない気持ちを引き起こさせる何かを持っているような気がする…と酷く曖昧な結論を出して目を閉じたが、やはり眠れない。
時計はすでに2時を過ぎ、明日も早いのになんだかなぁ、と思いながら、再び起き上がり、冷蔵庫のミネラルウォーターを喉に流し込む。
冷えた液体が喉を伝い、乾いた身体を潤しても、俺の胸の高鳴りは収まらない。
なんだろう。
この胸のときめきは…え!?ときめき?と、自問自答して、冷蔵庫の扉をぱたりと閉める。
ときめきって言葉は、どう考えてもおかしいだろ。
なんだよ、『ときめき』って…と、自嘲しながら、再びベットに寝転がるが、胸に手を当ててよく考えると…それは静まることなく、瞼の裏に浮かぶのは、いくつもの顔の一宮で…。
「いかんいかん!俺は一体どうしたんだ!?」
と、もう一度叫び、未だ少し濡れている髪を掻き毟った。
大事な時なんだ。
そして、大事な仕事なんだ。
こんな気持ちになってしまう余裕なんてないはずだ。
こんな気持ち?
「こんな気持ちって一体なんなんだよおー!」
ジタバタと一晩中、俺はもがいていた。
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