第5話

オフィスには誰もいない。

その上、最悪なことに、エコだのなんだのと、実質さを伴わない理想論のお陰で、このビルの冷房は止められている。


窓の外に映る派手なネオンを見ながら、

こうやって真面目に働いているサラリーマンが、電気消費量を僅かばかり使ったところでどうなんだ!と、捻くれた気持ちで、汗をふく。


いい加減帰ろう。


もう、大丈夫だ。

いや、もう一度確認をしておこう。

などと思い考え、さらに手直しをして、この時間になってしまった。


大きな窓ガラスには、上半身裸の俺が、映っている。

本当なら、スラックスも脱ぎたい気分だけれど…。


ふと、視線を変えると、窓ガラスに、茫然と立ち尽くす一宮が窓ガラスに映っていた。


「あ、れ?お前、まだ帰ってなかったの?」


振りむき声をかける俺に、一宮は固まったまま言った。


「あ、…はい…っていうか……シャツは…。」

「あー、すまん、脱いだ。暑くてさ…。」


一宮の手にはコンビニの袋。

その袋に視線を落としながら、彼は言った。


「なんか、俺も気になって…プレゼン週明けだし…もう一度確認しておこうかなって…いや、絶対大丈夫だって自信はあるんです、でも…。」

急に饒舌になりながら、一宮はそういうと、その袋を俺の机の上に置いた。


「食べます、か?」


袋の中を覗くと、そこにはよく冷えたペットボトルが入っていた。

そして、おにぎりが、いくつか。


「いいの?」

「…はい。」

「んじゃ、一緒に喰いながら、もう一度詰めようか。」


一宮はちょっと戸惑ったように瞳を揺らした。

その瞳になぜか俺の心も揺れた。


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