第3話

胃が痛い。

社内コンペで勝ち上がってしまった。

いや、勝つのはいい。

自分たちの企画が勝つのはいいが…それを発案したのは一宮だった。

大手企業の新しい目玉商品の宣伝企画。

今までとは違う斬新な方法をとクライアントから言われた。


さらなる試練はライバル会社との一騎打ちだ。

そして、その相手は…どうも、須賀らしい。


こんなに早く、彼と勝負するとは…と思いながら、俺はチームを集めた。


「我らチームの企画が選ばれた。」


皆から歓喜の声がわきあがる。

同僚の立山がそばにいた一宮の頭を撫でている。


「喜ぶのは未だ早い…この業界じゃ老舗と言われるわが社の新しいライバル…M社との決戦が二週間後に迫っている!」」


皆から少しどよめきが起こる。


最近、このM社と争って2勝1敗の戦績を残しているからだ。

この仕事にかける会社の期待も半端ない。

今まで、連覇してきた我が社も新しい風に押されつつある。

その代表がM社だ。


「若い力でぜひとも勝ち取れ!無様に負けて帰るな!」と、部長に叱咤激励されたばかりだ。


そう言えば、この間負けたチーフはどこかの部署へ格下げで飛ばされたっけ…と思いながら、胃の痛みは大きくなるばかりだ。


「M社といえば、須賀がおるやん…。」

少し沈んだ声で、立山が言った。


「そうだよ…しかも今回はあいつのチームらしい。」


そう答える俺に立山が言った。

「あいつの斬新なアイディアに俺ら…勝てるんかな?」


立山と須賀も仲が良く、須賀の実力をよくわかってもいたのだ。

その横でなぜか一宮が不敵に笑いながら言った。

「勝ちますよ。」

「お!いっちゃん、強気やな。」

立山が茶化すように言う。


「だって、そのためにここまできたんですからね。」


そのためにココまで来た。

彼はそう言って俺の目を強く見つめ返した。


「そ、そうだよ。そのために俺たちは頑張ってきたんだから、大丈夫さ。」


なぜかその視線に押されて言った言葉。


一宮は、そんな俺を見てまた馬鹿にしたように笑っているような錯覚を起こす。

そして、彼の存在が、酷く…憂鬱な存在でしかなくて。


あいつには関わってはいけないような、そんな気がする。


だが、すぐに思い直す。

仮にも俺の部下だ。

可愛い…いや、外見だけなら可愛いが、部下なのだから、関わってはいけないなんて…そんなことは社会人としてどうかしている。

そう思い込もうとしている俺は、なぜ、こうも一宮のことが引っ掛かるのだろうか。



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