第27話 思い出した時にはすでに時遅し


祝福された結婚の夜には、初夜をした。よりにもよってこの日に限って、ジークヴァルト様は骸骨姿にならなかった。おかげで緊張のまま彼に身体を預けた。


__この魔王に。


思い出した。前世で、私は魔王討伐をした聖女で、隣で全裸で寝ているこの色男が前世魔王の骸骨様、いや、ジークヴァルト様だ、


その時に、左胸がチクンとした。痛みが走ると、一瞬で治まった。


「なに……?」


起き上がった身体をシーツで隠していた。そのシーツを少しだけずらすと、何も付けてない左胸が露わになったままで……左胸に紋章が浮かんでいた。

頭から全身に向かって青ざめる。


間違いない。何百年も前に、この魔王が私に付けた印だ。


何百年前、フェアフィクス王国になる遥か昔に、この魔王がこの地を支配していた。そして、当時も聖女だった私が魔王討伐に出た。

魔王と幾度も対峙した。そして、雷に撃たれて魔王に負けた。でも、彼は私を殺さなかった。


そんな私に魔王が一言言った。


『世界に興味はないから、支配を止めてやってもいい』と。


出した条件は、一つ。


『気にいった。俺と結婚しろ』というもので……。


「確か、未来永劫俺の花嫁だ、とか言っていた気が……」

「思い出したか?」


ハッとした。おそるおそる全裸で隣に寝ていたジークヴァルト様の方を向けば、うつ伏せのままで顔だけ私の方を向けている彼と視線が交わった。


「……っわ、私……」

「ああ、やっぱり繋がれば、印が現れたか……」


左胸の紋章を、ジークヴァルト様がそっと指でなぞった。


「に、逃げなくちゃ!!」

「俺の目の前で、堂々と逃亡宣言をするなよ。何百年探したと思うんだ」

「だって……っ」


逃げるためにベッドから飛び出そうとすると、ジークヴァルト様が後ろから抱きしめて離してくれない。


「リリアーネが、記憶封じの魔法をかけて逃げたせいで、俺は探すのに苦労したんだ」

「あ、あれは、あなたが、転生の術を使おうとするからっ……」

「でも、やっとリリアーネを捕まえた。記憶がうっすらだったから、探すのが大変だったんだ。何百年も見つからないから、何度も人間に転生する必要があったし……俺に相応しい身体になるように、フォルカス公爵家を繋いでいて良かった。それなのに、リリアーネと一緒に生まれ変わるために転生の術を使う前に君はいなくなるし」

「まさか……呪いのせいですべて思い出したんじゃ……」

「ああ、思い出してくれたか? リリアーネと出会ったのがきっかけだと言ったはずだ。君が呪いを解いてくれたから、すべて思い出したんだ。何百年も前には、結婚する前に逃げたこともな。俺との結婚をバックレるなんて、酷い聖女様だ」


後ろから色気を醸し出して私の首筋を這ってくるジークヴァルト様。恥ずかしくて、赤面した顔の私は、今すぐに逃げたい。


「は、離して……っ」

「なんだ。昨日みたいに、ジークヴァルト様と、言ってくれないのか? 俺に惚れているだろう? 昨夜はずいぶんと可愛かったし……」


そういって、後ろから抱き着いているジークヴァルト様が触れた唇から、私の首筋がチクンとする。


「は、離してーー!」

「ダメ。二度と離さないから」


ベッドの上で、離してくれないジークヴァルト様。ジタバタする私は後ろからしっかりと抱き締められていた。


ああ、やってしまった。敵であった魔王との結婚からバックレたはずなのに、今世では、すでに結婚して、初夜まで済ませてしまった。


まさか、生まれ変わってまで追って来るとは予想外だった。恐ろしい執着心だ。そして、私を手に入れるために、周りをすべて固めているとは……


逃げよう。逃げるしかない。


青ざめたままで決意する。


「リリアーネ。今度は逃がさないから」


そう言って、私を抱き寄せてジークヴァルト様がキスをしてきた。









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骸骨公爵様の溺愛聖女 屋月 トム伽 @yazukitomuka

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